ニコ動が崖っ縁、「独りよがり」新機能で炎上 会長が自ら謝罪、古参動画サービスの危機

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発表後もこれらの批判が止むことはなく、結局、冒頭のような“謝罪”に至った。開発者ブログの中で川上会長は、動画・生放送の画質を現在より引き上げる計画を追加で発表。来年1月には運用を開始する方針も示した(生放送は当初枠数を限定)。

パソコンでの利用を中心としてきたサービスだけに、ニコ動の発表会はメディアの体験用にPCがずらりと並んだ(記者撮影)

2007年のサービス開始から10年。サブカル領域で独自の文化を醸成し、世界でも屈指の動画ストリーミングサービスに成長したニコニコ動画だが、足元では陰りが見える。有料会員(月額540円)の数は2016年3月末の256万人をピークに、同年12月末にはマイナスに転じ、その後は四半期ごとに5万人超の減少が続き、直近は228万人となった。

世界のネット大手は続々と機能拡充

停滞の背景には、若年層の新規ユーザーを取り込めていないという課題がある。近年、動画サービスでは米グーグルのユーチューブを主戦場とする動画クリエイター「ユーチューバー」が絶大な人気を誇る。また、ライブ配信ではメッセージングアプリのLINEが提供する「LINE LIVE」のほか、フェイスブックやツイッターなどの、すでに巨大な利用者数を抱えているプラットフォーマーが続々と機能を拡充している。

これらのライブ配信サービスは基本的に無料で配信・視聴でき、当初からスマホ視聴を前提に開発されている。画面上のボタン一つで配信を開始・終了でき、視聴者側がコメントを書き込むのも容易だ。こうしたインターフェースを当たり前に使う若年層にとって、有料かつPC利用が前提のニコニコはどうしてもハードルが高い。

自信満々で発表会に臨んだ川上量生会長だが、ユーザーの要望には応えられなかった(記者撮影)

若年層を取り込む新興勢力が台頭している現状について、川上会長は「若年層は新しいサービスに対する感受性が高い。失いやすいと同時に、獲得しやすいマーケットだ」と楽観的な見方を示す。だがこれは、他のサービスに引けを取らない手軽さ、便利さをニコニコで実現することが前提になるだろう。

発表会を前にして、「ストリーミングサービスのマーケットを明け渡すつもりはまったくない」と豪語していた川上会長だが、新しいユーザー層の開拓以前に、既存ユーザーから総スカンを食らう事態を招いてしまった。自明だったはずの課題は放置されたまま。再成長への道のりは長い。

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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