北朝鮮が「テロ支援国家」に再指定された意味 トランプ大統領の意図はどこにあるのか

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このやり方は、すべての交渉が力を試す場であるトランプ大統領のような「肉食系」には向いているかもしれないが、北朝鮮の対処法としては現実的ではない。北朝鮮は長年にわたって圧力をかけられており、トランプ大統領が就任してから追加で科されたわずかな制裁程度では、北朝鮮の考え方は変わらなかった。

北朝鮮ウォッチャーの多くは、この対立解消のカギを握るのは時間だと考えている。この背後にあるのは、まずありえないが、中国が北朝鮮に制裁をかけることに真剣になれば、時間が経つにつれ北朝鮮は相当の打撃を受けることになるだろうという前提だ。しかし、一方で北朝鮮はミサイルと核開発を進めており、窮地に追い込まれ場合、危険な存在になりうる。つまり、これは懸念すべき組み合わせだ。

「話し合いに関する話し合い」は避けられない

北朝鮮と外交を通じて効果的にかかわるためには、北朝鮮政府が交渉から何を得たいと思っているのかを認め、考慮する必要がある。北朝鮮が望むものが与えられるべきだと言っているわけではない。その要求の中には、現実、そして合理的な考え方に反するものもあるからだ。こうした要求はむしろ、後に発生する駆け引きのきっかけとなる。

この状況では、「話し合いに関する話し合い」は避けられない。話し合いをするための話し合いを正当化するわけではないが、「前準備」は欠かせないだろう。これと同様に、問答するために座っているだけのこと、北朝鮮と対話の席につくこと自体が北朝鮮にとって、ある種の報酬であるという考え方は危険だ。とはいえ、北朝鮮の意図や行動に、疑念や疑惑を持つのをやめるべきではない。

北朝鮮の行動は、多くの点で、トランプ大統領が実業家であったときの行動を反映している。北朝鮮政府の行動は、将来の合意を順守するという信頼感を傷つけてでも、すべての抜け穴を悪用し、影響力を最大限に活用しようとするものだからだ。

トランプ大統領は、北朝鮮の論理に対して特別な洞察力を持っているのかもしれないが、圧力を外交的な成果に変える戦略は有していない。しかし、もしそうだとすれば、過去23年間と同様、米国の北朝鮮戦略は失敗し続けることになる。

ブラッド・グロッサーマン 多摩大学ルール形成戦略研究所 客員教授

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Brad Glosserman

パシフィックフォーラムCSISシニアアドバイザー。1991年から2001年にかけて、The Japan Times編集委員。現在、ソウル発行の研究雑誌『New Asia Research Institute』の編集委員や、オーストリアのインスブルック・マネジメント・センター講師なども兼任。ジョージ・ワシントン大学法務博士、ジョンズホプキンス大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院修士、リード・カレッジ学士。近著に、外交問題評議会(CFR)のスコット・スナイダー氏と共著でコロンビア大学出版会より2015年に出版された‟The Japan-South Korea Identity Clash: East Asian Security and the United States"がある。

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