サウジは、若き皇太子の暴走で自滅へ向かう 石油とマネーで翻弄してきた反動が始まる

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最近では、レバノンのサアド・ハリーリ首相(スンニ派でレバノンとサウジアラビアの二重国籍を持つ)がサウジアラビアに呼び出されたうえ、軟禁されるという事件も起きた。レバノンで影響力を強めるのは、イランが支援するシーア派武装政党のヒズボラー。そのレバノンがイランと協議したことに対する報復と報道されたが、プロトコルを優先する外交関係では、あってはならない誘拐行為だ。

このほかイスラエルの参謀総長がサウジアラビアを支援するシグナルを送っている。今までサウジアラビアは、「反シオニズム、パレスチナ支援」を旗印にしながらも、米国を媒介にして、暗黙のうちにイスラエルとは協調関係にあった。その関係も「見える化」している。このことは、サウジアラビアがイスラム教の大義を損ねた、と非難されるリスクを抱える。

そして、サウジアラビア国内におけるムハンマド皇太子の暴走は、この11月に起きた。王族を含む関係者が汚職の疑いで逮捕され、首都リヤドのリッツ・カールトンホテルなどに監禁された事件だ。

逮捕、虐待、自殺未遂者まで出た

この事件は広く報道されているので触れない。が、王族内における石油利権の配分を汚職とすれば、サウジアラビアはこうしたことは日常というから、いくらでも王族を粛清することが可能だ。しかも逮捕された王族はほとんど、ムハンマド皇太子の親戚か姻戚にあたる。その王族たちを逮捕し、虐待を加え、自殺未遂者まで出たとすれば、尋常ではない。

この事件に絡んでは見逃せない人事も行われた。アブドゥラー前国王の息子でサウジアラビア国家警備隊(兵力12万5000人)の大臣である、ムトイブが解任され、ムハンマド皇太子に忠誠を誓う大臣が就任したことだ。アブドゥラー家の国家警備隊支配に終止符が打たれた形である。この結果、ムハンマド皇太子が国軍と治安機関に加えて、国家警備隊まで掌握したことになる。「ムハンマド皇太子に不満があっても軍事力でクーデターを起こすことは困難な情勢」(村上氏)になっているという。

体制が危機に陥った際には、従来とは反対の行動をとる指導者が登場する。たとえば、ソ連のミハイル・ゴルバチョフや中国の鄧小平だ。ゴルバチョフは失敗したが、鄧小平は毛沢東神話を毀損せず、中国共産党が統治する社会主義市場経済を構築することに成功した。今や中国は日本を抜いてGDP世界2位の経済大国であり、最近では、習近平が汚職摘発をバネにして権力基盤を盤石なものにしている。

スケールはより小さいかもしれないが、ムハンマド皇太子もそれこそ「アッッラーの意思があれば」、中国のように、国教であるワッハーブ派の旗印を毀損せずにサウジアラビアの改革・開放に成功し、後世から「乱暴だったが、名君だった」といわれるかもしれない。ただ、欧米もイスラム世界も現在のところ、その可能性は低いとみているようだ。

中東のエネルギー情勢に詳しい経済産業研究所・藤和彦上席研究員は、「ムハンマド皇太子は運転者にたとえると、経験のないペーパードライバー。急発進、急ブレーキ、車線変更という暴走運転をしている」としたうえで、「いずれサウジアラビア国内で反発を招き、宮廷クーデターや政変が起こり、ムハンマド皇太子が失脚する可能性が高い。政変劇の後、どういう勢力が指導権を握るかの争いが起きて、世界を不安定にすることを心配している」と指摘する。

1973年の第1次石油危機以降、世界は、石油とマネーを行使するサウジアラビアに振り回されてきた。まだその時代は終わっていない。

内田 通夫 フリージャーナリスト

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うちだ みちお / Michio Uchida

早稲田大学商学部卒。東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』の記者、編集者を歴任。

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