サウジは、若き皇太子の暴走で自滅へ向かう

石油とマネーで翻弄してきた反動が始まる

しかし、2017年9月、宮廷クーデターが発生する。仕掛けたのは副皇太子のMBS。MBNは皇太子だけでなく内務大臣の職も解かれ、皇太子の座を引き継いだのは、ムハンマド(MBS)だった。このころからサルマン国王が生前退位し、ムハンマド皇太子に譲位する、というシナリオがささやかれるようになる。現在でも、2018年1月に予定されているサルマン国王の訪米後、生前退位をするという観測がある。

ムハンマド皇太子が指揮するサウジアラビアの内外政策は、アブドゥラー前国王時代と正反対になっている。

いったいムハンマド皇太子とはどういう人物なのか。サウジアラビアなど湾岸情勢に詳しい村上拓哉中東調査会研究員は「改革志向が強い。サウジアラビアの人口の過半を占める30歳以下の若い世代に支持されている、リスクをいとわない大胆な性格の持ち主」と説明する。

問題はムハンマド皇太子が何を狙っているかだ。第一はもちろん、他の王族を排除し、自分が「次期国王」になること。それもサルマン国王の死後でなく、まだにらみが利く時期に。もし成就したとすれば、これから半世紀ほど国王にとどまることも夢ではない。第二はサウジアラビアの「改革・開放」だ。石油に依存したバラマキ経済が限界に来ていることは、サウジ国民を含めて誰の目にも明らかだからである。

過去の仕組みに対する”清算”が必要

過去の仕組みの清算が必要だと、ムハンマド皇太子は思っているのだろう。自ら主導した経済改革「サウジ・ビジョン2030」では、産業化やレンティア国家(国民から税金を取らずに石油収入を配る)からの脱却など、野心的な構想が盛りだくさんだ。世界最大の産油会社であるサウジアラムコの株式公開(IPO)、軍事産業の国産化、観光業の育成が目玉である。なおかつ2018年からは、低税率ながら消費税を導入する予定。ガソリン、ガス、電力など、異常に低かった公共料金も引き上げる。一方で女性の運転を認めることも、開放路線も視野に入れる。

目下、サウジアビアを取り巻く国際情勢の悪化は、ムハンマド皇太子の危機感を募らせている。これらを列挙すると、以下のとおり。

原油価格下落による財政の悪化

安全保障を依存してきた米国に全幅の信頼が寄せられない事態

たとえば、2015年にオバマ前政権で結んだイランの核開発合意が守られていないことや、2013年にシリアのアサド政権が化学兵器を使用したにもかかわらず軍事介入しなかったことで政権打倒に失敗したこと、などである。ただし、ビジネス本位のトランプ現政権はサウジアラビアが大量の武器購入をするかぎり、政権を支えるだろう。

宿敵であるイスラム教シーア派のイランによる、イラクやシリア、レバノン、イエメンへの影響力拡大

宗派(イスラム教スンニ派内のワッハーブ派)を同じくし、GCC(湾岸協力会議)のパートナーであるはずの、カタールの離反

カタールは小国ながら世界有数の天然ガス生産で潤い、衛星放送アルジャジーラを通じて、イスラム世界に影響を与えている。が、そのカタールはサウジアラビアの圧力をかわすため、なんとイラン側についた。狭いカタールにもともと駐留していた米軍に加え、サウジアラビアとの関係悪化後には首長(王家)を保護するためにイラン革命防衛隊とトルコ軍が進駐するという、かつては想像すらできないことが現実になっている。

以前からムハンマド皇太子は、ウマが合わなかったカタールとの関係を前国王時代のように隠すのではなく、首長を排除できないことがわかると2017年6月には国交を断絶。さらには陸路や海路、空路を閉鎖するなど強硬処置に出た。国際関係の「見える化」を進めることが、前国王時代の「見えない化」に慣れた世界の人々には、皇太子の”暴走”に映る。

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