「感電自殺」を図った20歳男性の絶望と貧困 母親に「彼氏」ができるのが許せなかった

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タカヒロさんはアルバイト仲間の大学生に対しても手厳しい。「アルバイトでも仕事は仕事なのに、“ホウレンソウ”もろくにできないやつが多い。そのくせ、自分勝手なシフトばかり要求してくる。大学なんて全然、行きたいと思いませんね」。

しばらくはアルバイトでおカネを貯め、後々は高校での専門を生かし、電気工事士の資格を取るつもりだ。

両親にも、学校にも、政治にも期待はしない

「資格さえあれば、正社員として採用してもらえる自信があります。就職できないという人がいるけど、今の時代、企業がどういう人を採用したいと思っているか、わかっていないんじゃないか。何でもかんでも人のせいにしちゃいけないと思います。

政治のせい? 関係ないですよ。特に期待することもないから、(10月に行われた)選挙にも行きませんでした。っていうか、(連日出勤のため黒い印字で埋まっている)この真っ黒なタイムカード、見てくださいよ。いつ投票に行けっていうんですか」

冷静な語り口に時々、乾いた笑い声が混じる。高校生のときから自立を強いられたタカヒロさんは確かに賢く、たくましい。そんな若者に、両親にも、学校にも、政治にも期待はしないと言わせる。そういう社会に私たちは生きている。

タカヒロさんに話を聞いたのは週末のファミリーレストラン。家族連れなどでにぎわう店内で一瞬シャツをはだけて、感電自殺を図ったときにできた傷あとを見せてくれた。左胸あたりに火傷のような丸いあとがある。さらに、右手の親指を除く指には母親が突き付けてきた包丁を握ったときにできたという、一直線の傷あとがあった。

最近、ようやく戻り始めた体重はまだ50キログラムに届かない。50キログラムを超えないと、「唯一の楽しみである献血(400ミリリットル)ができないから困る」と笑う。自殺願望は完全になくなったわけではない。献血はボランティアでもあるが、自殺衝動を抑えるための手段でもあるという。

たそがれ時。これから夜勤だというタカヒロさんは、繁華街の雑踏へと消えていった。パーカーに両手を突っ込んだ華奢な後ろ姿。彼がついこの間、20歳を迎えたばかりの若者であることを思った。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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