「感電自殺」を図った20歳男性の絶望と貧困 母親に「彼氏」ができるのが許せなかった

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自殺未遂後は、行政の福祉担当者らが間に入り、タカヒロさんは独り暮らしをすることになった。条件は、学費は母親が負担し、生活費は自分で稼ぐこと。家族に何かを期待することをあきらめ、母親と距離を取ったことで精神的には幾分落ち着いたが、今度は貧しさとの闘いが始まった。

学費が払われていない

新たな住まいは家賃4万円のシェアハウス。勉強とアルバイトに追われる日々はただでさえ過酷だったのに、半年ほど経った頃、担任の教師から「学費が払われていない」と告げられた。嫌がらせなのか、本当に家計が苦しかったのか――。母親と直接話をしていないので、本当のところはわからない。仲介役を期待した教師は「これは先生とお前じゃなくて、お前とお母さんの問題だから」と言うばかりで頼りにはならなかったという。

タカヒロさんはやむなく留年。その後は生活費に加えて学費も稼がなくてはならなくなり、飲食店や日雇派遣など多いときで3つの仕事を掛け持ちした。家賃を払えなくなりそうな月は食事を1日1回に減らし、白米にしょうゆをかけてしのいだ。

どう頑張っても、卒業できる気がしない――。そう言って学校側に相談しても、中退か、新たに諸費用がかかる通信制への編入を提案されるだけ。転機となったのは、行政側の担当者から「高認(高等学校卒業程度認定試験)を受けてみれば」と勧められたことだった。迷った末、昨夏に高校を中退。この担当者が高認用の参考書を貸してくれたこともあり、さいわい、試験は一発で合格した。

しかし、日々の貧困は待ってはくれない。最近は仕事を掛け持ちすることはなくなったが、アルバイト先はどこも「ブラック企業」ばかりだという。

今はネットカフェで働いている。時給は地域の最低賃金と同水準。毎月の労働時間は約200時間に上るうえ、10回以上の夜勤をこなしても、手取りは13万~15万円にしかならない。タカヒロさんが写真に撮ってきたタイムカードを見ると、30時間近く連続で働いている日もある。社会保険などの加入もなし。休みは週1。忙しさのあまり、ここで働き始めてから、体重が10キログラム近く減った。

タカヒロさんによると、給料が安いのは、時間外手当がついていないからだという。1度、社員におかしいのではないかと尋ねたところ、「時間外手当は時給に含まれている」と説明された。彼は淡々と「正社員なのに、こっちが知らないと思ってウソばっかりつくんですよ。別にいいですけど。辞めるときにあらためて会社に言うか、労基署に行くかしますから」と語る。タイムカードの写真を抑えたのはいざというときに証拠として使うためだ。

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