モバゲーを開発した天才エンジニアの突破力 DeNA、川崎修平氏が明かす「モノづくりの壁」
自分が得意とする発想力とか技術力で突破できるような壁だと分かれば、拳から血が吹き出ようが何だろうが、その壁を叩きまくるけれど、そういうことじゃあないんだな、と痛感しました。
新しい領域や職能にも積極的にチャレンジすることはすごく大事にしているけれど、自分に向いていないことに責任感やプライドで固執するのもほどほどにしないといけないなと。
その後、日本に戻り、また開発現場に戻った僕は、ライブ動画ストリーミングプラットフォームの『SHOWROOM』や、個人間カーシェアサービスの『Anyca』の開発に携わりました。
マネジメントやチーム開発が苦手なのは事実だけれど、「エンジニアらしい打ち手はあるはず」という気持ちもあって、モノづくりの取り組み方自体を工夫したり、実験したりもした。
例えば、僕は僕で好きなように作り、別の担当エンジニアにも好きなように作ってもらい、お互いにできたものを持ち寄って「これいいよね」とか「ここってこうすれば良くない?」なんてふうに議論しながら進めていく手法というのも、この時に試してみたやり方の一つ。
時には、得意でない進め方で大幅にスケジュールが遅延して、機能をそろえただけの、サービスを成功させる意志が感じられない出来となってしまって心を病んだこともありました。そんな時は、頼み込んで時間をもらって、慣れた作り方で自分として使ってもいいと思える出来まで仕上げさせてもらったり。こうした試行錯誤を経験したからこそ、SHOWROOMもAnycaも自信を持って世に送り出すことができました。
僕は自分が作りたいと思ったものを人に頼まずとも自分で作れる方がいい。僕は僕がやりたいことをやるためにプログラミングを学んだ。人に言われたものを作るばっかりになってしまったら、何のために技術をやっているのか分からなくなってしまう。マネジメントは得意じゃないし、やりたいことでもない。高額な給料も欲しいとは思わない。パンのミミを食ってりゃ満足できるような人間だ。これができたら面白いな、という思いが僕の全てのモチベーション。ただ、面白いと思ってもらえるものを作りたい――。
この時期、自分はそもそもなぜエンジニアをやっているのか、ということをそんなふうにずっと考え続けていたように思います。
目を見張る結果を出せぬまま過ぎた10年――
そして、新たな成果の形に気付いた40歳
1人のエンジニアとして、30代で痛感した「限界」みたいなものを、つい最近まで引きずっていました。ここ数年で手掛けた仕事はそれなりに成果を出している。ただ、その成果がMobageの時のようなレベルにまでは行っていないから、モヤモヤしていたんだと思います。
エンジニアとしての限界との戦いというよりは、自分で勝手に抱え込んでしまった負い目みたいなものとの格闘。そういう種類のモヤモヤです。でも40代に入り、この2~3年でようやくモヤモヤを吹っ切れたように感じています。
明確な一つのきっかけがあったわけじゃありませんが、例えばCSRの一環でプログラミング教育の取り組みにも携わるようになった。そこで用いる教材について、どうやったら生徒がプログラミングを身近で面白く感じてくれるかだけを考えて設計する作業などは、20代の頃の僕と同じ、伸び伸び自分らしくやれている仕事の一つで、原点回帰の良い機会になったかもしれません。また、多くのエンジニアと対話をする中で、だんだんと考え方が変わり始めた気がします。
仕事としてエンジニアをやっている以上、必ず結果は問われる。ただし、全てのチャレンジが成功するとは限らない。
また、数字的には失敗したものであっても、「このサービスのこの部分に、この技術をこう使ってみたのは面白かったよね」という、エンジニア同士、分かる人が見れば分かる成果の形があります。そしてそれが、「次の成功につながるかもしれない種」となっていくことを実感できるようになってきたんです。
僕が手を動かした仕事を通して、そういう種まきができているならいい。何かが生まれそうな匂いを最大化する役割ってのもいいんじゃないか。40歳を過ぎてから、そんな柔らかい発想ができるようになってきました。
最近は、余計なしがらみを考えないで、とにかく思い立ったら作ってみるという感覚が戻ってきてる感じがしてるんですよ。「これいいでしょ?」と言えるものをいつ出すか。自分でもちょっとワクワクしています(笑)。今そんなふうに言える自分は、若い頃思い描いていた理想の40代です。50代になってもやっぱり手を動かしてモノづくりをしている、いちエンジニアでいたい。
天才なんかじゃないけれど、そんなことはとっくの昔に自覚していたけれど、吹っ切れた今の自分には、また昔のような自信が湧いてきています。作るのが楽しくてしょうがない自分が、やっと帰ってきた。それがうれしいし、これからの自分にまた期待してほしいですね(笑)。
取材・文/森川直樹 撮影/小林 正(スポック)
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