群馬の最北端で見た新たな「観光資源」の正体 農家が宿泊者受け入れる「農泊」が町を変えた
町の最北部にある人口450人ほどの集落で先代から継承したホテル・スキー場を経営する松本氏は、都内の大手企業からのUターン。「働く場所がない」が住民たちの口癖のようになっていた場所のホテルであるにもかかわらず、毎年各地から応募してくる新卒学生を採用し、「自然と笑顔に」という理念を打ち立てた。
これには「自然を通じて心からの笑顔を生み出す」「働く人たちが心から笑顔になれる環境をつくる」「地域の人たちが一緒に笑顔になれる循環をつくる」という思いが込められている。厳しい状況の中で、「自社だけが生き残ればいい」という考えでは長期的な安定は求められない。全体が潤う循環を松本氏は強調している。
松本氏に「次の手」を尋ねると、その一例として「ヘルスツーリズム」の答えが返ってきた。
「心身を病んだ人が、健康な環境で、体に良いエクササイズと食生活などを体験して、回復することを狙いとしたツアー」。中高年が最も好むレジャーである「旅」と、メタボやうつ病などから解放する「健康」を組み合わせたツアーとして業界関係者も注目しているそうだ。
行政との連携
国は、「2060年に1億人程度の人口を確保する」という中長期展望に立ち、2015年から2019年度までの5カ年で取り組む「地方創生」戦略を明らかにしている。2016年にはこの戦略をかみ砕いた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を打ち出し、地方に仕事をつくり、平均所得を向上させ、安心して住み続けられる「好循環」をつくり出そうというのを大きなテーマにしている。
私が関心をもったのは、その戦略目標の中に「時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守るとともに、地域と地域を連携する」と掲げられていた点である。内容は「立地適正化計画」=「コンパクト・シティ」構想で、そのメリットや合理性はうなずけるものの、中山間地域の実情にはそぐわないと感じた。
効率や利便性よりも、人々が「生まれ育った土地に住み続けたい」「少々の不便さは気にならない」というマインドの部分を拾えていないと思うからである。
戦略の立案者たちも、段階的なプロセスとして、中山間地域などには「小さな拠点」の形成が重要だとしている。その事業目的は、「地域住民が主体的に、行政などと連携して、地域の困りごとに対応(活動)することで、暮らし続けたいという『願い』を実現させる」などと説明され、「地域イノベーション」への入口にはなると思う。一方で、この戦略そのものが「地方」への丸投げになって、双方が疲弊してしまうことを懸念する。
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