現代の科学者には、どんな教養が必要か? 山折哲雄×鷲田清一(その3)

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理性の私的利用と公的利用の違い

鷲田:カントの『啓蒙とは何か』という本に出てきますが、カントは理性の私的使用と公的使用という分け方をしています。私も若いときは、プライベード、パブリックという文字どおりの意味で軽く読んでいましたが、よくよく丹念に読むとカントはすごいことを言っています。

つまり、理性、もしくは、知性をプライベートに使う、私的に使用するということは、自分が得になるように使うという意味ではなくて、たまたまこの社会の中で、自分にあてがわれた地位や境遇やポジションにひたすら忠実に知性を使うということです。

カントに言わせると、企業人が会社の利益のために、官僚が国家の利益のために自分の知性を使うのは、プライベートな使用になります。だから、普通、日本で官僚はみんな公的に知を使っているように見えますが、カントに言わせると、それは私的使用になるわけです。

では、知性の公的使用とは何かと言うと、「理性」にもとづく思考、世界市民、コスモポリタン的なそれものです。国家、企業や特定の組織のためではなく、それを超えたところで知性を使うのが本当の公的使用です。

そうすると、今回の震災や原発事故でも、何が問題だったか、つまり専門家がなぜここまで信用を失ったかというと、役人の記者会見でも、東京電力の社長の発言でも、誰が見てもカント的な私的使用をしていることからです。企業を守るために、あるいは官僚の責任を問われないように知性を使っている。それを多くの人が直感的に理解したがゆえに、役人も東京電力も信用を失ってしまった。

山折哲雄(やまおり・てつお)
こころを育む総合フォーラム座長
1931年、サンフランシスコ生まれ。岩手県花巻市で育つ。宗教学専攻。東北大学文学部印度哲学科卒業。駒沢大学助教授、東北大学助教授、国立歴史民俗博物館教授、国際日本文化研究センター教授、同所長などを歴任。『こころの作法』『いま、こころを育むとは』など著書多数

山折:僕の体験でいうと、要するに最も普遍的な価値観の源泉というのは、空に輝く星、内面の良心に従うということですね。

鷲田:それを基準として、カントは公共、私的を分けていますよね。

山折:たとえば、大学である教員を採用するかしないかを議論するとするでしょう。そういうときに、個人的な日常生活の態度が悪い人間は、はねられていくわけです。私は専門分野の業績がよければ採用したらいいと、しばしば思いますけどね。

鷲田:日本の場合は、同僚になってうまくやってくれればいい、という話になりがちです。

山折:そういう意味での人格性の悪い引用の仕方というのもありますね。

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