それでも日本株は「年内急落」の可能性がある 2018年は日経平均2万3000円も見えてきた

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もう一つ、米国の市場価格調整を引き起こす材料としては、減税を中心とするトランプ政権の経済政策に対する失望(余談だが、「インフラ投資」はどこへ行ってしまったのだろう?)や、財政審議を巡る混乱だ。

今までは、ハリケーン「ハービー」の被害という「国難」を口実とした、暫定予算の策定や債務上限引き上げに対する超党派合意、あるいは今月の予算決議(予算の大枠を示すもの)の上下院での可決といった推移で、財政関連の議会での審議は、大過なく進んできた。

しかし、予算決議の採決は、上院が51対49、下院が216対212という僅差であり、これは野党民主党が全員反対したのみならず、与党共和党からも造反票が出たためだ。つまり、薄氷の上の可決といった形で、今後の個別の歳出法や減税案の採決については、薄氷を踏むだろう。

現在の連邦法人税の20%への引き下げは、もともとはオバマケアの改廃や国境税の増税など、代替財源の存在を前提としたものだった。今はこの2つとも、ほぼ断念された状況だ(ドナルド・トランプ大統領は、オバマケアの改廃について、3度目のチャレンジを行なおうとしているようだが)。

このため先週は、代替財源として、401k(米国の確定拠出年金制度)の非課税枠を縮小する、という観測が飛び出した。極めて筋の悪い代替財源案であり、大統領はすぐに否定したが、それだけ議会が「何か代替財源を」と血眼になっているという状況がある。逆に言えば、何の代替財源も見つからなければ、減税案自体が縮小するものと見込まれる。

財政以外の論点と減税案の賛否が結びつく危険性も

さらに、減税案に対する議会の反対票が、財政の議論の外から湧き出す可能性がある。共和党内で、財政赤字の膨張に最も反対する勢力は、フリーダム・コーカス(自由議員連盟)と呼ばれるグループだが、他の議員も含めて、共和党内では、自由貿易も強く標榜する勢力がある。その考え方の背景には、政府の関与が少なく(財政赤字が小さく)、企業や個人が自由に活動すべきだ、という精神があるが、現在トランプ大統領はNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを進める構えだ。この見直しに反対し、NAFTAの堅持を主張する議員たちから、「修正するのであれば、減税案に賛成しない」との声が上がり始めている。このように、財政以外の論点と減税案への賛否が結びついてしまうことがありうる。前述のように、暫定予算も債務上限も、当初の9月の期限からは延長されたが、12月8日(金)に次の期限が来るため、その前に財政審議に対する不安が広がる局面がありうる。

以上を踏まえると、年内に、米国株価や米ジャンク債市況などのリスク資産価格が大きく調整し、それが米ドル相場も下振れさせることで、日本国内にさしたる悪材料が無いにもかかわらず、日本株が押し下げられてしまう、という展開を懸念しているわけだ。

なお、最近話題にされなくなった、いわゆる「ロシアゲート」について、早ければ10月30日(月)にも容疑者の身柄が確保されるだろう、と米国のCNNが報じている。その容疑者とは、いったい誰なのかは伝えられていない。だが、仮にトランプ政権の幹部だとすれば、政権の存続自体(あるいはトランプ大統領の去就自体)が揺らぐ可能性がある(もちろんそうならない可能性もある)。トランプ大統領が事態を挽回しようと、「冒険主義的な行動」に踏み切る恐れもある。

こうして年内の米国発の市場波乱(日米だけではなく、たぶん世界的な波乱)を懸念しているが、それは別に今週のことではなく、少し先かもしれない。もし今週でなければ、日経平均株価は、目先は余勢を駆って、今少し上値を伸ばす可能性はある。ただ、そこは買い場ではないだろう。
今週の日経平均株価については、2万1500~2万2200円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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