日本人が知らない「北朝鮮経済」の表と裏 実は富裕層も増え始めている

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三村 光弘(みむら みつひろ)/1969年生まれ。大阪外国語大学外国語学部朝鮮語学科卒業、大阪大学大学院法学研究科博士。2001年環日本海経済研究所入所、11年から現職。『解剖 北朝鮮リスク』『朝鮮半島の秩序再編』(いずれも共著)など著書多数。訪朝回数も豊富(撮影:尾形文繁)

──2012年に金正恩政権が本格化して以降、経済状況が改善しているという見方があります。

この数年のミクロ的な視点からいえば、毎年状況はよくなっている。マクロ的に見ても、経済規模は拡大している。もちろん制裁強化が進めばマイナス成長になる可能性はある。ただ、それが3〜5年という期間で済めば、それ以降、北朝鮮経済は今後もよくなるだろう。10年ぐらい続いても、北朝鮮は「欲しがりません、勝つまでは」と持ちこたえることもできる。

北朝鮮の指導層やエリート層は、ミサイルの到達距離が米本土に近づけば米国は自分たちを大事にすると思っている。北朝鮮という国家が存在することを前提に米国が交渉してくれればいいが、逆に米国が締めつけようとすれば北朝鮮にとって命取りになるかもしれない。

──豊富な訪朝経験を基に、北朝鮮国民の本音も記されています。1990年代後半、「苦難の行軍」と呼ばれた経済難を生き抜いたエリートの1人の言葉は印象的です。

あの時代、「心がピュアな人たちはたくさん亡くなった」と10年ほど前に聞いたときは、これからの北朝鮮経済は、これまでと違った形で変わってくるのだろうなと感じた。社会主義の理想を掲げ、国家の力を信じていた人たちほど食糧が手に入らず死んでいったということだ。生き残るためには仕方がなかったとしても、生き残った人は当時亡くなった人たちと比べると「不純」な気持ちを持ったり、後ろめたい行動をしたといった思いがあるのだろう。

「苦難の行軍」時期である1995〜1996年ごろ、深刻な物不足に陥った。国家の配給も止まった。家長が家族を養えなくなり、妻や両親、子どもまで一家総出で買い出しをしなければ生きていけない時代を経験している。

国民に対するグレーゾーンが広がっている

──「最悪な状況を見てきたから」と、経済制裁を冷ややかに見ている北朝鮮国民も少なくはありません。

国家が生活に対して責任を負えず、今は家族総出で何とか食えるようになった。そこから、「われわれの生活に国家は口出しするな」という意識が国民に広がっている。それを受け、国家の干渉や関与を慎重に行う、あるいは国民の行動を黙認する動きもある。

国家は「こういう方向でやりましょう」という大枠を示すが、よほどの逸脱がなければ黙認するようになった。独裁国家ゆえに強権、弾圧というイメージは残るが、実際は国民に対するグレーゾーンが広がっている。その中で経済も動いており、「これぐらいやっても大丈夫か」という、いわば裁量が経済主体にも広がっている。

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