インドのEV政策でトヨタとスズキが大慌て 日印共同声明ではHVへの言及もあったが…

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インドで人気のスズキ「バレーノ」(撮影:梅谷秀司)

それに冷や汗をかいているのが日本の自動車メーカーだ。2016年にトヨタ自動車がHVの新型プリウスを、ホンダがアコードハイブリッドをそれぞれ投入。スズキも鉛蓄電池を搭載したマイルドHV(モーターだけでは走行できないハイブリッド車)をすでに販売しており、20年をメドにリチウムイオン電池を使ったHVを市場投入する計画だ。今のところ日本勢はインド市場ではHVを優先させる戦略だったにもかかわらず、インド政府の急な方針転換に泡を食っているのだ。

トヨタ・キルロスカ・モーター(インドにおけるトヨタ車の製造・販売子会社)のシェーカル・ビシュワナタン副会長は地元経済紙(エコノミック・タイムズ)で「政府はEVを推進しているが、HVも環境にとって重要だ」と政策を批判した。インドのナレンドラ・モディ首相の出身州に工場を建て、2020年からHVを生産しようしているスズキの困惑は大きい。

インド市場で50%近いシェアを握るスズキだが、急激なEVシフトに困惑している(写真は2017年5月、決算会見に臨む鈴木修会長。撮影:尾形文繁)

9月14日、インド北西部のグジャラート州でスズキの新工場の開所式とスズキ・東芝・デンソーの合弁によるリチウムイオン電池工場の定礎式が行われた。式には訪印中の安倍晋三首相とインドのモディ首相も列席した。安倍首相の参加は、日本政府としてこのプロジェクトを全面的に支援していることをインド側に伝える狙いもあった。

グジャラート工場はスズキ100%出資の4輪車の生産工場。2017年2月から生産を始め、年産25万台を目指している。1983年にインドに進出したスズキは現地のマルチ社との合弁で事業を拡大し、インドにおけるシェアは現在50%に迫る。今回、単独で工場を建設し、競争が激化するインド市場で競争力を高めようという戦略だ。

リチウムイオン電池工場は、この工場に隣接する工場用地に建設される。2020年の稼働を目指し、グジャラート工場で生産予定のマイルドHV向けの電池をつくる予定だ。

高シェアがEVシフトの足かせに

HVにこだわる理由について、スズキ幹部は「インドでは電力インフラがまだ十分整備されておらず停電も多い。石炭火力発電のシェアは約6割だ。石炭火力で発電した電気をEVに充電すれば、炭酸ガスの排出量は減らない。いずれEVを投入するが、現状ではHVのほうがインドでは環境に優しい」と説明する。

また、インド国内ですでに部品を含めたサプライチェーンを構築していることや、所得が低いインドでは高価なEVはまだ普及段階ではないこともEVシフトを踏みとどまる理由になっているのだろう。

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