「白鹿」「菊正宗」名家の知られざる系譜と課題 兵庫・灘五郷に集う有力酒蔵が放つ存在感

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5代目と7代目の西宮市長が辰馬家出身だったこともあり、市政との関わりが深い。市庁舎や図書館建設のような寄付に加え、市民が集える宴会場や迎賓館の役割を担う施設としてホテルを運営していたこともある(2014年に売却)。直近では待機児童を減らすために保育園を設立している。

全国的に有名な日本酒の酒蔵はさまざまな分野で地域にも貢献している(記者撮影)

ただ、日本酒の国内消費量は1970年代のピーク時から3分の1に減った。吟醸酒、純米酒など原料米製造方法などの諸条件によって分類される特定名称別で見ると、純米吟醸酒は伸びているものの、一般酒の比率が高い灘五郷の酒蔵は、新潟県や宮城県など北陸・東北の酒蔵に押され気味だ。

こうした市場環境を打破するため、灘五郷を代表する酒蔵の経営者は若返りを図っている。辰馬社長を始め、今年6月に33年ぶりの社長交代となった沢の鶴、23年ぶりの交代となった剣菱酒造、32年ぶりの交代となった菊正宗酒造など40代が中心を担う。

「飲み手の代替わり」も必要に

「日本酒の飲み手の代替わりも図っていく」。辰馬社長は言う。辰馬本家酒造では、既存の日本酒マーケットの中でシェアの奪い合いをするのではなく、ビール、ワインなど日本酒以外のお酒を飲む人、お酒を飲まない若者を取り込んでいく。

3年前には、日本酒の楽しみ方を提案する場、体験できる場として京都にショップ「おづ」をオープンした。ここでは、日本酒に和菓子と日本茶といった新しい組み合わせを提案。今年8月には、東京都内で、日本酒カクテルを販売するイベントを行い、カクテルベースとしての日本酒の新しい活用方法も提案している。

西宮市本社近くにある、直営店舗「白鹿クラシックス」には、自社の商品だけでなく、灘の蔵元の酒がずらりと並ぶ。実は、灘五郷の酒蔵経営者の多くが、甲南大学出身者。「先輩後輩としてつながっていて親戚も多い。競合相手といえども結び付きは強い」(辰馬社長)。灘五郷の各社は、そうした先輩や後輩の結びつきなども活用しながら、需要獲得に向けた取り組みを進めている。

『週刊東洋経済』10月23日発売号(10月30日号)の特集は「日本を動かす地方の名門企業77」です。
中原 美絵子 フリーライター

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なかはら みえこ / Mieko Nakahara

金融業界を経て、2003年から2022年3月まで東洋経済新報社の契約記者として『会社四季報』『週刊東洋経済』『東洋経済オンライン』等で執筆、編集。契約記者中は、放送、広告、音楽、スポーツアパレル業界など担当。

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