神田昌典「10年前のマーケ本が売れる理由」 日米で読み継がれる「究極のセールスレター」

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だが、この本が翻訳されたおかげで、原理原則をわかりやすく、しかも楽しく解説しており、読者はダイレクトマーケティングのエッセンスを短期間で学べるようになったのである。

日本人の方ならば、2つの疑問が生じるだろう。

1つは、「アメリカ流のやり方が、ほんとうに日本でうまくいくのか?」ということである。答えを正確にいえば、うまくいく。しかし、劇薬なので、使用には若干、表現を和らげる必要がある。

米国のテレビショッピング番組が日本で放送されるケースを考えていただきたい。米国の番組内容そのものを翻訳するのでも、もちろん効果的な場合も多いが、長期的に売り上げを上げるためには、米国の表現内容を、日本流に直していくことになる。

たとえば、初版の前書きを寄稿しているグレッグ・レンカー氏は、テレビショッピングの大手の、ガシー・レンカー社の社長である。同社は、全米で大ヒットしたニキビ肌用化粧品「プロアクティブ」で日本市場に参入しており、アメリカ同様の広告コンセプトを使って、日本でも瞬く間にニキビケア市場の売り上げナンバーワンを達成した。

実は、そのガシー・レンカーに長年、コンサルティングを提供していたのが、本書著者のダン・ケネディなのだ。この実績を踏まえれば、本書のノウハウが日本でも役立つことは間違いない。しかし、その「プロアクティブ」の通販番組も、ブランドを確立していく段階に入れば、日本では不安をかき立てたり、あおったりする部分はカットされ、むしろ共感を重視し、その後の効果を表現する比重が高くなっていく。

このような表現上の配慮が、企業がブランドを重視するようになると必要になるのだが、その底流にある人を購買に向かわせるためのパターン、「価格を度外視させる3つの公式」は普遍的な原理原則として、ぜひ学んでおいていただきたい。

価格を度外視させる3つの公式

公式1:問題提起 → あおる → 問題解決

著者であるダン・ケネディはこの公式について次のように述べている。

私たちは、得することよりも、苦しまずにすむほうを選ぶ傾向がある。……この基本公式を使って、防犯システムからスキンケア製品まで、まさにありとあらゆる業界のセールマンのために、超効果的な販売提案の仕組みをつくってきた。業界は全部で136業種を超え、セールスレターだけでなく、セールスマン自身にも活用している。これこそ、いままでに考え出された中で、たぶん一番確実なセールスの公式だろう。

 

第1段階は、お客の抱えている問題を明確にすること。その問題は、お客が自覚しているものかもしれないし、自覚がないものかもしれないが、どちらでもかまわない。問題をはっきり述べるだけ。ここでは相手の同意が引き出されればそれで十分。

問題をはっきりと提示し、その問題によって読み手を揺さぶったら、今度は頭の中で、こう言わせるのだ。「何とかしなければ! でも、どうしたらいいんだ? ああ、いい方法があれば!」。まさにここが第2段階で、こちらの持っていきどころだ。米国では、ここで問題をあぶり立てる表現をとることが多いのだが、日本では、顧客の痛みを自分の痛みとして理解していることを伝え、顧客への共感を示す表現に変えることで、ブランドイメージを保つことができる。

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