地方政府の不動産開発とシャドーバンキング
不動産開発事業は、地方政府を中心として行われた。地方政府が金融機関から融資を受け、農民から安値で農地を買い上げて宅地を開発し、高値で売却して利益を得るのである(ただし、中国では土地所有権がないので、正確には「期限付き土地使用権」の売買)。これは不動産デベロッパー業務だ。そして、不動産価格上昇が続く限り、これは、地方政府にとっての「錬金術」になる。
この典型例としてしばしば報道されるのが、内蒙古自治区のオルドス市だ。同市は、高度成長に伴う石炭価格の急騰を背景に、炭鉱開発を行った。それによる収入で、市政府は旧市街から20キロメートル離れた荒野に人口100万都市を建設するという不動産開発事業を始めた。高層ビル、巨大な公園、公共施設、多数のホテルなどが建設された。農地と引き換えに巨額の補償金を手にした農民は、不動産投資にのめり込んだ。
こうしたプロジェクトには、銀行の正規融資以外の資金も多く流入した。これが、「シャドーバンキング」だ。銀行やノンバンクなどが「利回り10%」などとして、高利回りの金融商品を個人投資家に販売する。これは、「理財商品(wealth management products:WMPs)」と呼ばれる。中国では、金融自由化が行われておらず、銀行預金金利はインフレ率以下なので、富裕層は、資産運用利回りを高めるために、これに投資する。
他方、借り手の側から見ると、銀行融資の基準は厳しい。また、地方政府は原則として地方債の発行を禁じられている。こうした事情を背景に、シャドーバンキングが資金の出し手と、資金を調達したい借り手を結びつけるわけだ。
この仕組みが中国の資産バブルを資金面で支えてきた。80年代の日本でも、不動産融資の総量規制への対策として、住専(住宅金融専門会社)などノンバンクを通じた間接融資が拡大した。中国のシャドーバンキングも、これと似たものだ。
こうした活動が経済危機後に急拡大したのだが、これは中国の統計上、政府の活動とはされていない。そこで、IMF(国際通貨基金)は、これを含めたものを「拡張された政府」とし、その規模に関する推計を行っている。
それによると、拡張された政府負債残高は、12年において、GDPの45%だ。また、毎年度の赤字は、「拡張された政府」で見ると、GDPの10%に達する(図参照)。この値は、09年に急上昇していることが注目される。リーマンショック前からの拡大幅は10%ポイントを超える。これに対して、公表されている一般政府赤字はGDPの2%程度に過ぎず、09年に拡大したときも、拡大幅は2%ポイント程度にすぎない。つまり、リーマンショック後の拡大策で重要な役割を果たしたのは、伝統的な意味での財政赤字の拡大ではなく、シャドーバンキングなどによる拡張された財政赤字の拡大だったのだ。
しかし、これは、中国経済に大きなリスクをもたらした。仮にバブルが崩壊してこれが不良債権化すれば、重大な問題となるからだ。中国政府は、この問題は対処できると繰り返し述べているが、影の銀行への規制を進めれば、不良債権化する案件が増えて、金融リスクはかえって高まると言われる。こうして、中国経済を破壊しかねない巨大な地雷が作られてしまったわけだ。
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