セイラーの行動経済学、異端の学問が大活躍 次のノーベル経済学賞は「フィールド実験」か

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ファイナンスの世界におけるセイラーの貢献も大きい。その一つは、1985年から1990年にかけてデボンらともに発表した「株価は過剰反応する」という主張である。当時は、株式市場では情報は適切にかつ瞬時に理解されて株価に反映されるという「効率市場仮説」が広く信奉されていたので、この発見はそれに対する挑戦であった。

ちなみに、効率市場仮説の主導者はユージン・ファマであり、2013年にシラーらとともにノーベル経済学賞を受賞した。当時、「効率市場仮説」を作ったファマとそれを壊したシラーに、同時に賞を授与したことに対し、「ノーベル委員会はどちらの見解を支持しているのか」という批判が高まったのである。

しかし、「効率市場仮説」は人々が合理的であり市場が完全であるという究極の世界で実現するものであり、現実がそれから乖離する程度を評価するのに必要なベンチマークである。同様に、行動経済学にとって「完全合理的な人間(ホモエコノミカス)であればどのような経済が実現するはずであるか」は現実の経済を評価する基準として必要なのである。

情報に対して株価はまず過剰反応する

株価の過剰反応の研究は「ある情報が入った時に株価がジャンプしその水準にとどまるのか、それともその後徐々に下がって一定の水準に収束するのか」というものが現在ではスタンダードになっている。このような研究は「イベントスタディ」と呼ばれ、個別の株価が特定のニュース(たとえば会社の決算の公表)にどのように反応するかを調べるものである。

セイラーらの研究はこれとは違い、全銘柄から株価の上昇率が高かった「勝ち組」と低かった「負け組」を選び、その後、負け組の株価は勝ち組より高い上昇率を示すことを明らかにしたのである。つまり、「勝ち組」や「負け組」は過剰反応によって生じており、その後その過剰反応が調整されると主張した。筆者個人は「イベントスタディ」のほうが分かりやすくて好きなのだが、セイラーの方法も、(1)原因を特定せず、(2)全銘柄で「過剰反応」が起きていることを明らかにしている点で優れている。

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