セイラーの行動経済学、異端の学問が大活躍 次のノーベル経済学賞は「フィールド実験」か
その影響もあってか、1990年に筆者がシラーのホームページを見た時、彼の専門は「行動ファイナンス」であると記されていた。当時、「行動・・・」という学問は怪しげで侮蔑の対象でしかなかったので、強い違和感を覚えたことを記憶している。二人は1991年から2015年まで、共同で「行動ファイナンスワークショップ」を開催した。とりわけ夏季セミナーが世界中の若い行動経済学研究者を育て行動経済学の発展に寄与したことは有名である。
セイラーは2015年度のアメリカ経済学会の会長であり、2016年度はシラーがその職にある。二人が研究を始めた1980年代には、合理的個人を前提とする経済学が絶頂に達し、それに異論をはさむ行動経済学はカルト的異端として徹底的に攻撃され排除されていたのである。
セイラーの回想では、あるコンファランスで超合理主義者であるロバート・バローと自分のモデルの違いについて「バローは彼のモデルで、人々は彼と同じように明敏だと仮定しているが、私は人々は私と同じように愚鈍であることを描こうとしているのだ」と述べたところ、「バローはその意見に同意した」とある。ところが、バローもノーベル経済学賞の有力な候補であるが、実際に受賞したのはセイラーが先だった!
心理会計=「儲けたい」より「損したくない」
セイラーの仕事は多岐にわたっている。最初に関心を持ったのは、カーネマンとトベルスキーが提唱した、人々は利得を喜ぶより損失を嫌がる程度が強いという「損失回避」をおカネの心理に応用することであった。これは「心理会計」と呼ばれる分野となったが、ほとんどセイラーが一人で作り上げたものである。
彼の回想によると、この彼の最初の行動経済学的な論文は「6つだか7つだかの主要な学術雑誌に掲載を却下された。正確な数は記憶の底に封印している。……折よく……新しい学術誌が刊行されたので、そこに送ったところ、創刊号に掲載してもらえた」。筆者も学術誌から「却下」を受け続け落ち込んでいる一人であるが、セイラーでさえそういうことがあったというのはホッとする話である。もっとも、この雑誌は現在では行動経済学に関連する専門誌の中ではトップジャーナルであるが。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら