大前研一「20世紀の人材観が会社を滅ぼす」 カリスマコンサルが語る「本当に欲しい人材」
私がかつて在籍していたマッキンゼー・アンド・カンパニーは、本籍はアメリカの企業だが、世界80カ国から社員を採用している、非常にダイバーシティに富んだ組織だ。しかし、私が入社した頃はまだ、明らかにWASP(White Anglo-Saxon Protestant)が支配していた。WASPとは白人エリートの保守派を指している。
たとえば、当時もマッキンゼーは世界中に事務所を置いていたものの、マネジャーにはアメリカ人しかなれなかったのである。後に私が東京支社のマネジャーになるまで、非アメリカ人のマネジャーは皆無だったのだ。
私は、マッキンゼーが真の意味でグローバル化を果たすためには、WASP中心主義から脱する必要があると考えた。だからマッキンゼーの常務に就任すると、社内で「rest of the world」や「overseas」という言い方をするのを禁じた。アメリカとそれ以外という考え方では、本当のグローバル化はできないからだ。
会社の名簿も、必ずいちばん上にアメリカがくるのはおかしいと主張し、アルファベット順にすべて直させ、昇給や昇進も全社員が平等となるようなシステムを構築し、アメリカ人とその他の国籍の人とで差がつかないようにした。
こうして1980年代に、社内にあるアメリカ中心の偏見をすべて一掃したのである。マッキンゼーのような企業であってもこの作業には、優に10年かかった。逆にいえば、古い人材観や人材戦略をオールクリアして新しくするためには、これくらい腰を据えてやらなければならないのである。
自分の時間の最低10%は採用に割り当てる
採用に関しては、ローカルの優秀な人材を確保するためには、地元の大学やビジネススクールの先生方と、時間をかけて信頼関係を築くことが最も確実なやり方だといえる。採用チームがいきなり学校を訪問して「はじめまして、マッキンゼーです。ぜひ優秀な学生をお願いします」とやっても、欲しい人材はまず採れない。
だから、時間はかかる。トップマネジメントなら時間の15%は人事に充てるべきだし、ディレクター、パートナークラスも自分の時間の最低10%は採用に割り当てる覚悟が必要だ。
日本の企業でそこまで人事に時間をかけているところはほとんどない。人事ファイルを見ても、そこに書かれているのは何年から何年までどこの部署に所属していたかくらいで、せいぜいそこに5段階評価が添えられているくらいのものだ。
これでは次の1年で何を改善すればいいのかわからないし、キャリアプランも立てられない。もっとも、20世紀の大量生産大量販売の時代だったら、先輩のあとについて見よう見まねで仕事を覚えていけば、それで事足りたのだろう。
ところが、21世紀のグローバル化の時代には、それまで国内市場でしかビジネスを行っていなかった企業が、突然インドネシアに進出するというようなことが当たり前のように起こる。
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