3:そして、「昭和ニッポンの闇」から逃げなかった脚本
最後に、1人の文化系「朝ドラ」ファンとして指摘しておきたいのは、「昭和ニッポンの闇」を描ききったこと、つまり、最近よく見かける「高度成長期の昭和は良かった」論に、脚本が陥らなかったことのすばらしさである。
私は当初、『ひよっこ』が、かなりの高い確率で「昭和は良かった」論に陥ると見ていた。しかし、それを裏切ったのは第11話だ。谷田部美代子(木村佳乃)が、失踪した夫=谷田部実(沢村一樹)に捜索願を出すシーン。「茨城」を「いばらぎ」と発音し、ぞんざいに取り扱おうとする警察官に対して、美代子が言う台詞だ。
「『いばらき』です。『いばらぎ』じゃなくて、『いばらき』です。谷田部実といいます。私は、私は出稼ぎ労働者を1人探してくれと頼んでいるんではありません。ちゃんと名前があります。茨城の奥茨城村で生まれて育った谷田部実という人間を探してくださいとお願いしてます。ちゃんと、ちゃんと名前があります。お願いします。あの人は絶対に自分でいなくなったりするような人ではありません。お願いします。お願いします。探してください。お願いします」(第2週「泣くのはいやだ、笑っちゃおう」11話)
これが良かった。「花の高度成長期」の裏で、出稼ぎ労働者の「蒸発」が相次いでいたという事実、それに対する社会の冷淡さ=「昭和ニッポンの闇」を、逃げずにしっかりと表現していた見事な脚本である。
そして極めつけは、峯田和伸が主役級の働きをした、ビートルズ来日に絡めた回である(第13週「ビートルズがやって来る」、14週「俺は笑って生きてっとう!」)。
戦時中「インパール作戦」に参加し、生死の境をさまようという、象徴的な「昭和ニッポンの闇」を経験し、そこで敵であるイギリス軍の兵士に救われた格好となり、その関係でビートルズ・ファンになった宗男が語る、ビートルズの魅力もいい。
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