総選挙前に知りたい2025年の「社会保障危機」 消費税「増税延期、使途変更」の余裕はあるか

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2025年に社会保障が危機を迎えるもう1つの理由は、このような超高齢社会を支える中核であるはずの10年後の中高年世代(40~50代)が、就職の時期がバブル崩壊後の新卒採用抑制期に遭遇した就職氷河期世代であるということだ。

この世代はバブル崩壊後の新卒採用抑制のあおりを受け、新卒時から非正規雇用となってしまった人が多数いる世代である。1990年1月から株価、地価の暴落が起こり、バブル経済が崩壊した。1997年のアジア経済危機、1997~1998年の大手金融機関の破綻などでさらに景気が冷え込み、新規求人倍率は1倍を切ってしまった。2001年から景気はやや上向いたが、その間も多くの企業は、新規採用を抑制し、おおよそ2003年くらいまで就職氷河期が続いた。その時期に就職活動をした世代は約2000万人と推定される。

就職氷河期世代の多くは若い時期から非正規雇用を余儀なくされ、その後も少数しか正規雇用となれず、所得水準が低いまま中年にさしかかっている。

2025年にはこの世代は40~50歳代半ばになる。本来であれば、税金や社会保険料を最も多く納めているのがこの年代である。つまり社会保障の危機は、支出面からだけでなく、収入面からも訪れることになるのだ。

これから国民が受け入れなくてはならないこと

さて、このような事態を回避するためにはなにをすればよいのだろうか。

結論を先に言うと、社会保障の危機を回避するためには、社会保障費の削減を含め、これまで認めたくないこと、タブーとされてきたことを受容しなければならない。

まず、国民負担率を60%近くに引き上げるだけの税や社会保険料の引き上げが不可避である。また自由に医療機関を選んで受診することをやめるなど、医療提供体制の縮小を受忍する必要がある。このような苦い薬を飲まなければ、社会保障はクラッシュし、日本社会全体が立ち行かなくなる。

このような苦い薬を飲もうとするかどうかは、国民が選択できるかどうかの覚悟にかかっている。高度な資本主義社会に生きる私たちは、健康や職業が脅かされると一気に生活が困難になるリスクを抱えている。このリスクを国全体でヘッジする制度が社会保障である。充実した社会保障を維持発展させるためには、みんなでおカネを出し合う必要がある。

このおカネを進んで出す覚悟があるかどうか、いま国民に問われているのだ。

山田 謙次 野村総合研究所 消費サービス・ヘルスケアコンサルティング部プリンシパル

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やまだ けんじ / Kenji Yamada

野村総合研究所 コンサルティング事業本部/消費サービス・ヘルスケアコンサルティング部プリンシパル。 東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。専門は社会保障研究、ヘルスケア分野における事業戦略策定支援。特に医療、介護、医薬、デジタルヘルスなどの領域。神戸大学大学院経営学研究科客員教授。

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