30年続く「マタニティコンサート」の感動秘話 胎内で音楽を聴いた赤ちゃんもお母さんに

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また、今では多くの演奏家がマタニティコンサートを行っているが、吉川さんが“草分け”になったことや、活動を長く続けてこられたのは、「フルート奏者」であることも大きいのではないかという。

「フルートの音は母親の声と音域がとても近いですし、シンプルな単旋律を奏でる楽器なので、子守歌と同じような感じで、お腹の中の赤ちゃんに音色が届くのではないかと思います。赤ちゃんが生まれた後、むずかっているときに、お腹にいるときに聴かせた曲を聴かせると、静かになったという話も聞いたことがありますから、骨盤や羊水を通じて、お腹の赤ちゃんにも音楽は、ちゃんと届いているのだと思います。

また、2009年に英科学誌『ネイチャー(Nature)』で報じられたことですが、ドイツ南西部ウルム近郊の洞窟の中で、3万5000年以上も前の時代の、マンモスの牙を素材とする世界最古の横笛が見つかりました。しかも、その場所は、その少し前に世界最古のビーナス像が見つかったのと、ほぼ同じ場所だったのです。このビーナス像は高さわずか6cmのごく小さなもので、安産や多産のお守りではないかという学説もあるそうです。安産のお守りと横笛が同じ場所に埋葬されていたというニュースに触れるにつけ、私がフルートでマタニティコンサートを始めたのは、何かに導かれてのことだと感じずにはいられませんでした」

そして、吉川さんの長年の活動を支えてきた、いちばん大きな原動力は、何といってもコンサートに足を運んでくださったお母さんや子どもたちとの出会いや、その笑顔だ。

「私が街を歩いていると、呼び止める女性がいて、傍らにいる子どもを、胎児のときに吉川さんの音楽を聴いた子どもがこんなに大きくなりましたと、笑顔で紹介してくださったことがありました。また、コンサートに、見ず知らずの子どもたちが花束を持ってきてくれたことがありましたが、その子たちも、マタニティコンサートのお客さんの子どもたちでした。こうした出会いの一つひとつが、私の活動の糧になっているのを実感します」

未来の子どもたちへのオマージュ

30年間、マタニティコンサートを続けていると、最初の頃、お腹の中で吉川さんの音楽を聴いた子どもたちが生まれ、成長し、そろそろ、親になる年齢になる。そこで、昨年、東京の明治神宮と鎌倉の建長寺で行った30周年記念コンサートを区切りとし、吉川さん自身も新たなステージへと歩を進めることにした。それが、今年10月8日の三重県を皮切りに、全国47都道府県でコンサートを行う「愛のフルートコンサート 未来の子供たちへのオマージュ」だ。

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