消費増税で政府に詰め寄る日銀 安倍首相の「最終判断」を前に、日銀が”警告”

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一度失った信認は回復できない

ただし、日本国債の9割以上は銀行や生命保険会社など金融機関を中心とする国内勢が保有している。増税が先送りされたとしても、もっとも保有割合が多い銀行は、貸出先がないためにやむなく国債投資を増やしているという事情がある。海外投資家の保有割合が多ければまだしも、国内の国債保有主体が直ちに売却に動き、債券価格が暴落するというシリアスな状況は起こりそうにない。黒田総裁も国債の保有構造を当然承知しているはずだが、あえて「できることは限られている」と言及したのは、増税予定の変更に対する”警告”ともみられる。 

今回の金融政策決定会合では景気判断を「緩やかに回復している」と上方修正したが、会見は消費増税に関する質問がほとんどだった。黒田総裁がその中で繰り返し使ったのは「市場の信認」だ。仮に14年4月と15年10月の消費増税を見送り、時期と税率の引き上げ幅を見直すとなると、新たな法案を可決しなければならない。「私の意見ではない」と断ったうえで、黒田総裁は、「例えば1度決めたことをやめて、違う形でやるといった時、その違うことが本当に実行されると、市場が信認するかどうかは分からない」とも述べた。

安倍首相は10月1日に公表される日銀の短観(全国企業短期経済観測調査)の結果を踏まえて、消費増税の最終決断を行うという。次回の金融政策決定会合は同月の3日、4日で、その時には決断が下されているとみられる。政府と日銀は、「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現」を目的として、今年1月に共同声明を出した。

黒田総裁は、「われわれは声明に沿って思い切った金融緩和をしました。だから、あなたがた(政府)もしっかりやってください」と言いたげだが、果たして、日銀が期待する通りの決断を政府が下すのか。最終期限が迫っている。

井下 健悟 東洋経済 記者

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いのした けんご / Kengo Inoshita

食品、自動車、通信、電力、金融業界の業界担当、東洋経済オンライン編集部、週刊東洋経済編集部などを経て、2023年4月より東洋経済オンライン編集長。

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