クルド人悲願「独立国家樹立」を阻む難題の山 住民投票は賛成多数になるとみられるが…

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仮にイラク北部のクルド自治区が独立した場合にはどうなるだろうか。イラクでは2003年のフセイン政権崩壊後、多数派のイスラム教シーア派が政権運営で中心的な役割を担い、隣接するシーア派の大国イランの影響力が強まった。

これに伴って、スンニ派地域で中央政府に対する不満が強まり、ISの台頭を招く要因にもなった。こうしたイラク国内のスンニ派が、クルド人に続いて独立に向かうとの予測もある。いったんはイラクのナショナリズムが盛り上がる可能性があるが、現在の中東で続く宗派的な対立が解消されない場合は、周辺国が介入する形で、さらなるイラクの解体につながるおそれもあるだろう。

国家独立すれば中東に新たな不安も

一方、クルド自治政府内にも不安はある。2011年7月に独立した南スーダンは、日本の自衛隊が国際平和協力業務(PKO)を展開して道路建設などを行ったが、内戦状態に陥って混乱している。クルド自治区も政治的には一枚岩ではなく、バルザーニ議長のクルド民主党(KDP)とゴラン(変革)党、クルド愛国同盟(PUK)の順で3大勢力を占めている。民兵組織間の対立、自治政府による汚職や縁故人事、政府の非効率といった問題を抱えており、独立した場合には対立が深まる懸念もある。

周辺国が危惧するように、クルド人の独立機運は波及するだろう。内戦に陥ったシリアでは北部のクルド人勢力が自治を強化しており、将来的には連邦制のような議論になるかもしれない。

また、トルコ南東部と接するシリア北部では、トルコの反政府武装組織、クルド労働者党(PKK)の兄弟組織である「クルド民主統一党」(PYD)の軍事部門「クルド人民防衛隊(YPG)」がISの後退に乗じて、勢力圏を一気に拡大させている。シリア北部はPKKの拠点になっており、トルコへのテロを激化させる可能性もある。トルコがクルド人への弾圧を強めれば、クルド人が独立や自治拡大運動を強める悪循環に陥るかもしれない。

こうした地域が混乱に陥れば、弱体化しつつあるISが活動地域を得て息を吹き返すことにもつながりかねない。クルド人にとっての悲願の独立も、中東の新たな混乱要因となる可能性もあり、予断を許さない状況だ。

池滝 和秀 ジャーナリスト、中東料理研究家

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いけたき かずひで / Kazuhide Iketaki

時事通信社入社。外信部、エルサレム特派員として第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)やイラク戦争を取材、カイロ特派員として民衆蜂起「アラブの春」で混乱する中東各国を回ったほか、シリア内戦の現場にも入った。外信部デスクを経て退社後、エジプトにアラビア語留学。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院修士課程(中東政治専攻)修了。中東や欧州、アフリカなどに出張、旅行した際に各地で食べ歩く。現在は外国通信社日本語サイトの編集に従事している。

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