イラクでの「IS敗北」で米国が手に入れる果実 14年間かけた闘いの成果はあったのか
過激派組織イスラム国(IS)のイラクにおける敗北は、ドナルド・トランプ米大統領の外交政策の勝利となるだろうか。差し迫るモスル陥落をうけ、これから何が起きるのだろうか。
まず勝ち組となるだろう人たちがいる。たとえばクルド人。一方、負け組となるのが、スンニ派だ。スンニ派が支配するISとの戦闘に向け、招集されたシーア派民兵を支援しているイランにも何らかの利益はあるだろう。
トランプ政権に有利な状況も出てくるかもしれない――具体的にいえばクルド人の独立、またシーア派が支配的なイラクにおける米軍基地の設立だ。しかし、米国による勝利宣言はそれがどのようなものであれ、こうした結果をどう評価するかにかかっている。
クルド人の独立は不可避か
まずクルド人問題について。クルド人の軍事勢力はいまのところ、石油の豊富なキルクーク県を含む北方領土の一部を支配している。この地域は2003年の米国によるイラク侵攻直後から一種の連合体として機能しており、イラク政府からの反発があったとしても、国民国家「クルディスタン」が完全に成立することはもはや不可避だろう。少なくとも、クルド人たちは間違いなくそう考えており、9月25日に独立を問う国民投票を予定している。
これまでの米政府は、クルド人の独立への渇望を抑えつつ、「イラク」を2003年時の国境内に留めおこうと努力していた。ジョージ・W・ブッシュ元大統領、また彼ほどではないにせよバラク・オバマ前大統領も、統一イラクをある種のシンボルとして望んでいたのである。
これは、サダム・フセインの抹殺および、中東の心臓部における半世俗的同盟国の確立を正当化する中で導かれた結論だった。クルド人を取り込んだ統一イラクというのは、北大西洋条約(NATO)加盟国であるトルコが求めていたものでもあった。トルコは、領土問題を抱える東側国境沿いの地域に、クルド人の独立国が誕生することを恐れていたのである。
一方、トランプ大統領率いる現在の政権は、クルド人の独立をそれほどまで不安視していないようにみえる。たとえばトランプ大統領が就任してから、クルド人派独立民兵への武器供給があからさまに行われるようになっている。これは初めてのことだ。