イラクでの「IS敗北」で米国が手に入れる果実 14年間かけた闘いの成果はあったのか

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一方、スンニ派が多勢を占める地域のイラクにおいては、トランプ政権が得るものは何もない。ISとの戦闘は、モスルを破壊し続けている。ラマーディーやファルージャといったスンニ派都市はすでに廃墟と化した。だが、米政府もイラク政府も何ら現実的な再建計画を持ち合わせていないのだ。

対してクルド人にとってはほとんど無関係な勝利であるにもかかわらず、また、シーア派とスンニ派の正面対決で純然たる敗北を繰り返しているにもかかわらず、トランプ政権はイラクにおいて必要なものを手に入れられるかもしれない。それは、イラクにおける米軍基地である。

14年間で4500人の命と数兆円の税金が失われた

ISが勢力を失った後、イラクはイランと固い絆でつながったシーア派国家となるだろう。イラクとイランが、この問題に関する米国の優柔不断なプラグマティズムのために支払わされる代償は、イラク国内における小規模だが恒久的な米軍基地に帰結するだろう。それも多くは、西側の監視が届きにくい地域に設置されることだろう(米国がキューバにあるグアンタナモ米軍基地を、当時のソ連支配下にあったキューバと断絶後も維持し続けていることを思い起こせば、これは決して笑い事ではないはずだ)。

トランプ大統領は、オバマ前大統領のように、イラクでの勝利宣言を急ぎ、基地を放棄するつもりはなさそうだ。また、トランプ大統領は、自らの計画を後押しするため、すでに数千の米兵を配備している。

米国はある種の勝利のシンボルとして、シーア派の、スンニ派への政治的に卑怯な報復の防止策として、また、シリアで勃発する可能性のあるあらゆる事態に対する防波堤として、基地の設置を目指している。加えて、拡大意欲を持つイランを警戒するイスラエルは、米軍によるイラク西部駐屯を強く求めることが見込まれる。

こうした中、取引の決め手になるのは、たとえ戦闘で勝ったとしてもその報いがイラクの残土だった場合、イランにとっていずれ失うことになる一部の砂漠地帯をめぐる争いがほぼ無益な点だ。また、これらの基地があることによって(米国の負担で)ISの後継者となったスンニ派がイラクに侵入することを防ぐことも可能になる。

イラクにおけるISとの戦闘はまだ続いているが、ある種の決着を予想できる段階にはなってきた。しかしそれが何であれ、ある重要な問いは、まともな回答を得られないだけでなく、問われることすらないまま戦闘は終わりを迎えるのだろう。その問いとは、14年間続いたこの戦闘で得たものが、4500人の死と、数兆ドルに上る税金に見合う価値のあるものだったのか、ということである。

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