日本人が知らない「プロジェクト・ゼロ」社会

英国人ジャーナリストが描く「資本主義」以後

昨今の危機は、新自由主義的モデルの終わりを意味するだけでなく、市場システムと情報を基盤とする経済とのずれが長く存在してきた表れでもある。私が『ポストキャピタリズム』を書いた狙いは、なぜ資本主義に取って代わることが、もはやユートピア的な夢ではないのか、どうすれば既存のシステムの中で、ポスト資本主義経済の基盤を築くことができるのか、どうすればポスト資本主義経済を早急に普及させることができるのか、を説明することにある。

テクノロジーは資本主義と共存できない

資本主義とは、単なる経済構造、あるいは一連の法律や制度だけを言うのではない。社会、経済、人口、文化、イデオロギーをひっくるめたシステム全体のことで、市場や私有財産を通じて先進社会をうまく機能させるために必要とされる。

これには企業や市場、国家以外に、犯罪組織、陰の権力によるネットワーク、ラゴス(ナイジェリアの旧首都)のスラム街の「奇跡の説教師」、ウォール街で不正を働くアナリストなども含まれる。欧州の衣料品メーカー「プライマーク社」にまつわる2つの出来事―─バングラデシュで縫製工場が崩壊した一方、ロンドンの店舗でバーゲン目当ての10代の女の子たちが興奮しすぎて騒動を起こしたこと─―も資本主義ならではの出来事だ。

資本主義をシステム全体として観察することで、数多くの基本的特徴が見えてくる。資本主義は有機体といえる。初期、中期、終期というライフサイクルを持っているからだ。複雑なシステムであり、個人も政府も、それに超大国でさえ、その動きをコントロールできない。

人々が分別のある行動を取った場合でも、その意図とは反対の結果となることも多い。また資本主義は学習する有機体でもある。絶えず適応するが、わずかな増加なら適応しない。大きな転換期には、危険に応じて、変形・変異し、前の世代には認識できないようなパターンや構造を形成する。

最も基本となる生存本能は、技術的変化を駆り立てることだ。もし、情報技術だけでなく、食料生産、あるいは産児制限、世界的な健康問題を考えるなら、この25年間は、おそらく人の能力が最も高まった時期のように思える。しかし、私たちが生み出したテクノロジーは資本主義とは共存できない。それは、資本主義が今あるような形をしているからではなく、おそらくどんな形をしていても共存できないだろう。

資本主義はもはや技術的変化に適応できなくなる。だから、ポスト資本主義が必要となるのだ。技術的変化を利用するために適応した行動や組織が自然発生的に現れれば、ポスト資本主義が可能になる。

『ポストキャピタリズム』で述べたいことを一言で表すとしたら、「資本主義は複雑で適応するシステムであるが、適応能力が限界に達している」のである。

言うまでもなく、私は主流の経済学からはかなり外れたことを述べている。景気が急上昇したバブル期に、エコノミストは、1989年以後に現れたこのシステムが永遠に続くと信じるようになった。

「財政政策と金融政策」という印が入ったダイヤルを回して調節する政治家と中央銀行の手にかかれば問題は何もかも解決できる、という彼らが使った言い回しは、人間の理性に訴えるには完璧だった。

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