日本人が知らない「プロジェクト・ゼロ」社会 英国人ジャーナリストが描く「資本主義」以後

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2つ目のシナリオでは、世論が分断する。一般の人々が緊縮財政のつけを払わされるのを拒否すると、極右と極左の政党が権力を握るようになる。それどころか、国家が互いに危機のコストをほかの国家に負わせようとする。

グローバリゼーションは崩れ落ち、国際機関は力を失い、この20年間にくすぶってきた争いの火種――麻薬戦争、ポストソビエト愛国主義、ジハード主義、制御不能な人の移動とそれに対する抵抗――がシステムの中心部で炎を上げる。このシナリオでは、国際法に対する口先だけの約束はなくなる。そうなれば、拷問や検閲、恣意的な拘束、市民への監視が外交技術で普通に使われる手段となる。これは1930年代に起きたこととは異なるが、同じことが再び起こらないという保証はどこにもない。

どちらのシナリオでも、気候変動、高齢化、人口増加の影響が2050年ごろから急速に強まる。もし、持続可能な国際秩序を構築し、経済のダイナミズムを取り戻すことができなければ、2050年以降の数十年間は、世界は混沌としたものになるだろう。

第3のシナリオを提案する

そこで、従来の策に代わる案を提案したい。まず、新自由主義を軌道から脱線させて、グローバリゼーションを救う。それから、資本主義を超えて先に進むことで地球を救い、混乱と不平等から私たち自身を救済するのだ。

新自由主義を脱線させるのは簡単だ。欧州では、抗議運動や、急進派の経済学者や政党の間で世論が高まっているからだ。脱線させる方法は、巨額の金融取引の抑制や緊縮財政の撤回、グリーンエネルギーへの投資、高収入の雇用促進などが挙げられる。

しかし、それでいったいどうなるのだろうか。

ギリシャの経験からわかるように、緊縮政策を拒む政府は1%の富裕層を守る国際機関とすぐに衝突することになるだろう。ギリシャで2015年1月に行われた選挙で、急進左派連合(SYRIZA)が勝利した後、ギリシャの銀行を安定させる役目を担っていたはずの欧州中央銀行(ECB)が、あろうことかその銀行への援助を断ち、それが引き金となって約200億ユーロの預金が引き出された。そのため、左派政府は「破産」と「服従」のどちらかを選択せざるをえなくなった。

これに関して、議事録や投票数の記録やECBの説明を見つけることはできないだろう。右派の独『シュテルン』誌は「ECBはギリシャを『たたきつぶした』」と表現した。それは象徴的に行われた。「ほかに選択肢はない」という新自由主義の主要メッセージを強調するためにだ。

つまり、これはソビエト連邦に災害をもたらす結果となった資本主義がたどった道とは何もかもが違う。資本主義に反抗することは、自然の秩序や永遠の秩序に反抗するようなものなのだ、と言いたいのである。

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