もう1つ大きな意味でも、米国通ではない別の証拠がある。それは米国ではなくカナダであった話だが、米国とカナダとは欧米文化圏としてほとんど差はないから、米国であった話と思っても差し支えない。
昨年6月、王氏とカナダのステファン・ギオン外相(当時)との共同記者会見があった。その場で王氏は、女性記者から中国の人権状況について問われたとき、感情的に反発して、こう答えた。「あなたは中国のことを何も知らない。人権保護については中国憲法に記されている」と。
この中国憲法論は、いま中国国内で極めて重要な論点になっている。それを感情に任せて振り回す王氏のコメントぶりはいただけない。憲法改正を視野に入れている習氏の足を引っ張りかねない。
カナダの記者会見での王氏の高飛車な対応について、同席したギオン氏は沈黙したままだったが、カナダのメディアは黙っていなかった。あとでそれを知ったジャスティン・トルドー首相は、政治外交的に異例だが、王氏とカナダ駐在中国大使に抗議し、その後、ギオン氏は更迭されている。
知米派の習氏は王氏に注意を喚起すべき
日本通の王氏は、駐日大使時代には比較的友好的だった。東京・麻布の中国大使館に近隣の人たちを招待したこともある。日本を離れて本国へ戻り、中国外相になってからは、どういうわけか、日本に牙をむくようになった。
新任の河野太郎外相と会談したときも、「あなたには失望した」と外交上失礼な発言をしたとされ、これに対して河野氏が「大国らしい振る舞いを求める」とやり返したと、日本の一部メディアに報じられた。
日本は我慢強いから、それで済んでいるが、米国やカナダなど欧米では、そうはいかない。当然、厳しい反撃を受けることになる。ことほどさように、王氏は欧米の文化やメディアに通じているとは言えない。少なくとも米国通ではない。
にもかかわらず、米国のことだけを考えて、集中的に中国の立場を繰り返し、欧米メディアに発信している。それが結果的に北朝鮮への「裏メッセージ」となって、誤解されていることに、王氏は残念ながら、まったく気づいていない。中国有数の名門意識の強いエリートの王氏にとって、北朝鮮の脅威に対して関心があまり高くないのかもしれない。
前回記事「習近平がイヴァンカ夫妻招待に熱心な理由」で詳述したように、習氏は中国の歴代権力者のなかではまれにみる知米派の国際人であり、欧米メディアには王氏よりはるかに用心深い。当然、「裏メッセージ」についても、先刻承知のはずだ。
そうであれば、知米派の習氏としては、不覚にも北朝鮮に誤解されるような発言を繰り返している王氏に対して、注意を喚起すべきであろう。少なくとも「裏メッセージ」発信の不注意について、王氏に気づかせることが先決である。
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