付け加えるなら、安倍首相以外の後継候補として名前の挙がる人々はいずれも(今回、名指しは避けるがかなり広い範囲の方々だ)、財政的に安倍氏よりも「なにがしか緊縮的」だ。
実質的な緩和の効果が財政政策に左右されるようになった現状では、日本の経済と株価に対して「より心配」な人ばかりであることが気掛かりだ。また、いずれの方も、金融政策の重要性を十分に理解しているようには見えない。政治状況が流動化した時に、後継首相候補が、官僚受けを狙って消費税率引き上げを早々にコミットしたり、金融緩和の出口政策を前のめりに語り始めたりすると、それだけでかなりの円高・株安が起こりかねない。
ミサイルと解散の微妙な関係
さて、いずれも気になる「北朝鮮のミサイル」と「解散総選挙の可能性」だが、前者の後者に対する影響がなかなか微妙な関係にある。
善し悪しは、「悪し!」に決まっている北朝鮮のミサイル発射なのだが、「材料」としては、安倍内閣の支持率回復に貢献する事象だろう。国民は、ミサイルによって安全保障上の危険が高まっている時に政権交代を望まないし、安倍氏は北朝鮮に対して強硬な態度を取るので支持されやすい。加えて、ミサイルに報道が集中することで、森友学園・加計学園・稲田朋美前防衛大臣に関わる諸問題など、安倍内閣の支持率を引き下げた話題の印象が薄れる効果もある。
北朝鮮のミサイル発射には、安倍内閣の支持率を立て直して、「早期解散」シナリオを採用しやすくする可能性がある。
ただし、北朝鮮のミサイルが連日発射されたり、まして、わが国の領土・領海のどこかに着弾したりするような事態が生じた場合、「解散どころではない」という状況になる可能性もある。この場合、安倍首相が来年3月まで在任する確率が高まるので、株式市場の材料としてはむしろプラスだ。
仮に「着弾」があると、たぶん株価が急落するだろうが、全面戦争に移行するのでない限り急落した株価は「買い」だろうし、戦争になっても、戦力的には米国が圧倒的だろう。この場合も、急落があれば、株価的には「買い」である可能性が大きい。北朝鮮から見て日本は、脅す価値は大いにあるが、破壊することによって自分自身にとって利益が生じる相手ではない。
政治の一般論として、解散ムードが高まっているのに解散できずにいると、政権の求心力が弱まることが多い。安倍首相としては、早期解散を実施してから投票日までの間に北朝鮮のミサイルが発射されるような展開が政治的にベストなのかも知れない。
しかし、選挙は水物なので、投資家の立場では、次の日銀総裁人事(来年3月)の前に政権の存続をリスクに晒す早期解散シナリオが現実化することはかなり心配だ。
相場論的には、もう一点、ジャネット・イエレン氏が率いるFRB(米連邦準備制度理事会)の動向が気になる。同氏は、今のところ、利上げペースについては「ゆっくり」を示唆してハト派的だが、FRBの資産圧縮に関しては案外タカ派的で、どちらをより強く志向しているのかが分かりにくい。確かに、彼女の風貌は鳥に喩えるならフクロウのようで、ハトともタカとも判じがたい。FRBとしては、金融機関の収益にとって重要な長短金利の差をもう少し拡げたいのかも知れないが、長期金利の上昇は株価にとっては大きなダメージになり得るので要注意だ。
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