北朝鮮が、ミサイル発射による挑発を強めている。8月29日には、日本上空を通過する弾道ミサイルが、襟裳岬から東に約1100kmの太平洋に落下した。北朝鮮の朝鮮中央通信は、「火星12号」の発射に成功したと発表した。また、金正恩委員長は、「日本人を驚かす」意図を持って、この発射を行ったとも伝えられている。全く、迷惑な話だが、確かに「少し驚いた」。
「親分」が「悪党」の存在を認めるという可能性
軍事は、物事の性質上、関係者の「手の内」がよく分からないゲームだし、複雑な利害と偶然が絡むので、経済を考えるような論理では理解しにくいが、難しいなりに考えてみよう。
最大の力を持ち、一連のゲームで最も重要なプレーヤーである米国の利害から考えるならどうなるだろうか。北朝鮮が「ほどほどの脅威」であり続け、一方で米国は先制空爆のような軍事的オプションを行使せず、場合によっては、北朝鮮と何らかの交渉(例えば相互不可侵条約の交渉)を行うことが、合理的であるように見える(軍事の専門家ではない筆者の個人的な見解だ)。
北朝鮮が「脅威」であり続けることは、米国の軍及び武器への需要を保つうえで好都合である一方、特に在韓の米軍・米国人への甚大な被害の可能性を考えると、先制攻撃が合理的な行動だとは思えない。一方、北朝鮮も、報復の大きさを考えると、先制的軍事行動は合理的ではない。「挑発」の範囲に行動を留めて、国内での金政権の体面を保ちつつ、米国との交渉の可能性を探るのではないだろうか。
わが国には、「強い親分・米国が、悪党・北朝鮮を懲らしめてくれる」ことを期待する意見の持ち主が一定数いるように思われる。筆者もその気分は分からなくはないのだが、親分と悪党は案外衝突せず、場合によっては、親分が悪党の存在を認めるかも知れない。その場合にも、われわれは親分に用心棒代を払い続けることになるのだろうから、日本としては冴えない話だが、各当事者にとって犠牲の少ない解決が合理的なのだとすると、こうなる可能性が最も大きいのではないか。
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