増税延期ならご破算 社会保障改革の命運 大企業や高齢者に痛み。安倍政権は決断できるか

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2兆円を超す負担増

「痛み」を伴う改革も目白押しだ。高所得者や高齢者の負担増のうち、目立った項目を抜粋しただけでも下表のようになる。これらを積み上げれば、社会保障支出抑制のインパクトは相当なものになるはずだ。

今回の骨子は全体像とスケジュールを示しただけのものだが、関係各省がこれまでに示した試算から、大体の規模はイメージできる。

たとえば、安倍政権が発足直後に早々と見送った70~74歳の医療費自己負担。これを本来の法律どおり2割にすれば国庫負担は0.2兆円減る。加えて高齢者医療に対する被用者保険からの支援金を「総報酬割」に全面転換すると、所得水準の高い大企業健保の負担は増える反面、中小企業の協会けんぽに対する0.23兆円の公費投入が不要になる。これに医師など高所得の国保組合に対する定率補助廃止、高額療養費の自己負担上限見直し、介護納付金への総報酬割導入の効果を足し合わせただけで、ざっと0.9兆円になる。

さらに高所得者に対する年金課税強化による歳入増をIMF(国際通貨基金)の分析に基づきGDPの0.25%=約1.2兆円と仮定すれば、財政再建効果は合計で2兆円超。消費税率換算で0.8%を上回る。

一方でそれだけの痛みを伴うとなれば、今後は政府・与党内からも巻き戻しの圧力が強まる可能性が高い。今回の骨子の中身を見ると、「見直し」「引き上げ」と表現に幅を持たせた案件が大半。大企業や高齢者の負担の増加に直結する項目が多く、改革の深度をめぐって利害対立が起きるのは間違いない。党内では「消費増税するのに保険料まで上げるのか」といった反感も渦巻く。

これに対し安倍晋三首相はどう立ち回るのか。言うまでもなく今回の社会保障改革は10%への消費増税と表裏一体。しかも10%に税率を上げても、財源不足は解消しない。9月下旬から10月上旬とされる増税の最終判断で、延期や内容の見直しとなったら社会保障改革もご破算だ。

「国民会議」は内閣が代わるたびに何度も設置されては同じ議論を繰り返してきた。が、結局は政治の混乱に阻まれ、改革は実行されなかった。今回は自民1強。安倍政権は改革を前に進められるだろうか。

週刊東洋経済2013年8月31日号

 

長谷川 高宏 東洋経済 記者
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