甲子園で秀岳館に見た「嫌われる勇気」の成果

「結果を出すための覚悟」を貫いた鍛治舎監督

広陵との試合では、何度もピンチが訪れた。しかし、一度もマウンドに伝令を送らなかった。敗戦後に理由を聞かれて鍛治舎はこう答えた。「私は伝令を使いません。試合の流れを止めてまで選手たちをマウンドに集めて指示を出すのが好きじゃない。そのときに監督が何を考えているか、選手はわかっていますから。普段から指示を出さなくても選手が自分たちで判断し、考えられるようにしています。過去3回の甲子園でも、一度も伝令は出していません」。

もちろん、これは一つの考え方であり、どのチームでも取り入れたほうがいい戦術、とは言い切れない。むしろ、「ピンチなのに伝令を送らないことに固執するのはおかしい」という批判もあるだろう。実際に、高校野球では伝令を送ったことが奏功し、選手が落ち着きを取り戻すケースも多々ある。

ただ、一つわかることがある。大阪から多くの選手を呼び寄せたチーム作りにしろ、伝令を使わない野球にしろ、鍛治舎が自分の信念を強烈に貫いてきたということだ。

高校野球人気の根底には郷土愛があるといわれる。だから、県外出身者ばかりのチームが愛されることは少ない。にもかかわらず、批判を恐れない鍛治舎の姿勢が甲子園出場4回、うち3度の準決勝進出につながったことは間違いない。いわば、「嫌われる勇気」を持って戦ってきたのが鍛治舎であり、秀岳館だった。

「大阪に帰れ」とチームが罵声を浴びたことも

鍛治舎はチームを率いた2014年から今夏までの道のりを振り返る。「初めは『大阪に帰れ』という声が聞こえました。2年目に九州大会に勝ってセンバツに出ることが決まったあたりから、祝福されることが増えました」。

就任当初に批判を受けるのは覚悟のうえで、その先に批判を乗り越えてつかもうとする大きな目標を描いていた。「1年目に厳しい批判を受けたのは仕方がない。目標はひとつ、日本一になることでしたし、いずれはわかっていただけるという思いがありましたから。今思えば、センバツでベスト4に入ったときが分岐点でしたね。熊本の方々も勝ちに飢えていた時期ではないかなと思います」。

甲子園で健闘を続けるうちに、熊本でも「秀岳館は強い」と、チームの実力が素直に評価されるようになっていった。「同じベスト4でも、最初は『おめでとうございます』と声を掛けられましたが、その後は『惜しかったですね』に代わりました。求められる次元が上がったと思います」

嫌われ者だった秀岳館は、いまやすっかり過去のものとなった。それを示す1つのデータが、現在の1年生の「地元比率」の高さだ。

鍛治舎は、自信にあふれる表情を見せる。「いまは熊本の子がたくさん入ってきています。1年生41人のうち32人が九州の出身です。地元の選手がきてくれるようになったので、今後は地元密着のチームになっていくでしょう。『大きくなったら秀岳館で野球をする』と言ってくれる小学生もたくさんいますから。最初の怒号を考えればものすごい変わりようです」。

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