オバマの来店も断った「天ぷら職人」の哲学 ミシュラン常連料理人の仕事論

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

もともと天ぷらは油で揚げて水分をなくし、素材の味を凝縮させるものとされていたんですが、私は「天ぷらは蒸し物」だと思っているんです。油の熱と水分を利用して素材のうま味を引き出すのが私の天ぷら。従来とは発想を変えたんですね。

「山の上」は私が料理長に就任してからの20年間、ノルマを達成しなかったことはありません。1度も、です。すごいでしょう?(笑)月商100万円もなかったところから、最終的には年商3億円の店に成長させました。

利益を出すには原価を削ってはいけない

でも、これは原価を抑えて利益を出したわけじゃない。いちばん大切なのは、食材の品質を落とさないことです。間違えがちなのは、みなさん利益を求めて原価率を抑えることばかり考えてしまうんですね。「いい子ちゃん」すぎるから、経営者の言うことを聞く。

でも、逆なんですよ。おいしくなければお客さんは来ない。原価率ばかり考えていたら、前に進みません。最初は原価率が40%でも、おいしければお客さんが増えて、原価率は下がる。本当においしいと思うものを出すことが大切です。

もちろん経営陣とは意見がしょっちゅう食い違いました。今だから話せますが、いい食材を仕入れるために自分の給料もつぎ込んでいました。たぶん、今のおカネにしてン千万くらいは……。だって、死んだエビなんて使えないでしょう。生きてなけりゃ。でも、そうしているとお客さんにはわかるんです。全員におすすめできるやり方じゃありませんけどね。

独立したのは、「天ぷらをもっと世の中に広めたい」という思いからです。山の上ホテルでも、料理長としてお店のことは任されていましたが、従業員としてできることには限りがあります。契約農家との関係を築いて、もっと質のいい素材を仕入れたり、若い世代でも食べてもらうために価格設定を工夫するというような自分の発想を形にするには、独立するしかないと考えたんです。

次ページ独立はしたものの…
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事