持ち家を苦労して買った人が将来抱える爆弾 東京・湾岸マンションはかつてないほど高騰

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大手デベロッパーは新築マンションの急激な値崩れを防ぐ目的もあり、手持ち在庫を一気に放出せず、開発エリアも需要の見込める駅近立地に絞り込んでいる。消費者は高価格に加えて、自分の望む立地に手ごろな物件を探しにくくなっている。

このため、同エリアなら2000万円ほど安い中古マンションを買い、1000万円ぐらいかけてリフォームして住み替えるというような需要も出てきている。全国的にも新築マンションの平均価格が新築の戸建て住宅の平均価格を上回る駅が続出しており、若い世代でもマンションから戸建て購入へシフトする動きがある。

高齢者は郊外戸建ての処理に悩む

一方、苦労して都心に新築物件を手に入れた現役世代には将来、別の悩みが待ち受ける。

戦後から高度成長期にかけて、住む家の少なかった日本では戸建てやマンションが大量に供給された。東京で働くために、多くの人が地方から移り住んだ。日本では一貫して地価が上昇したため「土地神話」を生み、持ち家志向を決定づけた。

バブル期までの地価上昇で、都心部で家を持つことが困難になり、宅地開発は首都圏の奥に広がった。ニュータウンが国道16号線を越えて外へ外へと開発されていった。自立して都心に世帯を構えた現役世代は、共働きであることも多いため、郊外の駅からバスに乗らなければたどり着けない実家に戻ろうとは思わない。

バブル崩壊で地価は下がり、築20~30年を超えた建物は評価額がゼロになってしまうため、売却すれば損が出てしまう。年老いた親は介護施設へ移ることもあり、放置された実家はやがて空き家になる。取り壊せば費用がかかるし、兄弟姉妹で相続するのも面倒だ。

高度成長時代、サラリーマンの「住宅すごろく」では、東京の企業に就職した若者は勤務先からほどよい距離にアパートを借り、独身生活を始める。やがて結婚・出産で家族が増えると、手狭な部屋からマンションや戸建てに引っ越す。それもまだ賃借なのだが、出世とともに収入が増えていくと、郊外に戸建て住宅を購入する。昭和世代の「一国一城の主」の完成である。

ところが平成の住宅すごろくはこれで「上がり」にはならない。野村総合研究所の試算では、2030年度の新設住宅着工戸数は持ち家が18万戸、分譲11万戸、貸家25万戸の計55万戸にまで縮小する。ちなみに2016年度の実績は約96万戸。今から4割近く減る計算だ。バブル後のピークだった1996年度の163万戸と比べると3分の1以下だ。加えて、既存住宅の除却や、住宅用途以外への有効活用が進まなければ、空き家率は現在の15%程度から2033年には30.4%へ倍増するという。

親の世代がせっかく苦労して手に入れた実家のマイホーム。数十年を経て、現役世代にとってやっかいな将来の爆弾となるケースも増えていきそうだ。

週刊東洋経済8月7日発売号(8月12・19日合併号)の特集は『親の住まい 子の住まい』です。
山川 清弘 東洋経済『株式ウイークリー』編集長兼「会社四季報オンライン」副編集長

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やまかわ きよひろ / Kiyohiro Yamakawa

1967年、東京都生まれ。91年、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。東洋経済新報社に入社後、記者として放送、ゼネコン、銀行、コンビニ、旅行など担当。98~99年、英オックスフォード大学に留学(ロイター・フェロー)。『会社四季報プロ500』編集長、『会社四季報』副編集長、『週刊東洋経済プラス』編集長などを経て現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト、日本テクニカルアナリスト協会認定テクニカルアナリスト。著書に『世界のメディア王 マードックの謎』(今井澂氏との共著、東洋経済新報社)、『ホテル御三家 帝国ホテル、オークラ、ニューオータニ』(幻冬舎新書)など。

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