これまで述べたとおり、747の旅客型は大韓航空向けの機体をもって生産が終了する運びだ。ただ、貨物型は米国の大手宅配会社UPSから747-8を14機受注しているため、生産そのものは続行される。
これまでの実績から見て、2カ月に1機のペースで納入が進められる見通しなので、完納までは2年程度かかるとみられている。これに加え、老朽化が指摘されている米大統領専用機「エアフォースワン」の更新に当たり、747-8をベースにした機体2機を使う計画がある。しかし、ドナルド・トランプ大統領がコストの圧縮を求めているほか、「実際の運用開始は2024年度以降」とされており、プランどおりに更新が実施されるかどうかはっきりしない。
燃費が悪くて、しかも着陸料が高いとあっては、新たに747を購入しようというインセンティブが生まれるはずもない。世界中にはまだ500機あまりの747が飛び交っているが、退役後に中古機の引き合いが来るのは絶望的のようだ。貨物機への転用の形で飛び続けられることもまれで、「部品取り用に残される以外は、どこかの砂漠に廃棄される運命」(前述のアナリスト氏)だという。747より定員数が多いA380も昨年の新規受注は1機もなく、「一度はあの2階建て機に乗ってみたい」と考える航空ファンや海外旅行予備軍の期待をよそに、ビジネス的には先細りという厳しい状況にある。
747に乗れる機会はあるのか
「ジャンボ機」は、一昔前に飛行機を利用していた人々にとっては「飽きるほど乗った機体」ではないだろうか。国際線だけでなく、国内線の幹線ルートは747が大半を占めていたからだ。
逆に、過去10年ほど海外旅行から遠ざかっていた人の目には、各航空会社が機体のダウンサイジング(縮小化)を進めていることから「最近の飛行機はずいぶんと小さくなった」と映るかもしれない。日本の航空会社はこれまでに747の旅客型をすべて退役させており、現在はわずかに貨物型が残っているにすぎない。
かつて成田空港では、夕方になると米系航空会社の747が多数駐機している光景が見られたが、これらの機体を飛ばしていたデルタ航空やユナイテッド航空は、今年中に747旅客型全機の退役を決めている。日本に引き続き定期便として乗り入れているのは、現ダイヤではルフトハンザ航空をはじめ、タイ国際航空、チャイナエアラインなど少数派となってしまった。
LCC(格安航空)が普及した昨今、「大きな飛行機」で運航を行って来たフルサービスキャリア(FSC)は、コストダウンを図りながらサービスの差別化を進めるといった厳しい課題を押し付けられている。
747旅客型の生産が終わらんとする一方で、ボーイング社は今年、同社のベストセラー機737の改良型「737MAX」の納入を開始した。単通路機ながら米国―欧州間を無着陸で飛べるのが特徴で、今秋には複数のLCCが米東海岸と英国を結ぶ路線に参入する。従来、LCCのビジネスモデルでは「長距離路線の運航は厳しい」とされ、幾多のLCCが大陸間路線に挑んだものの、撤退もしくは会社そのものの倒産に追い込まれて来た。しかし、技術の進歩により低コストで長距離を飛べる機体の出現で、これまでと違った需要が生まれ、LCCが長距離線の新たな担い手になるのかもしれない。
「大きな飛行機・747」の誕生で、航空旅行がより身近なものになった1970年代。今度は、「遠くに飛べる小さな飛行機」の普及で、航空旅行は新たな局面を迎えようとしている。
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