「教育困難大学」のあまりにもひどい授業風景 小学生レベルの知識が欠落している学生たち

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この大学は、スポーツ推薦や指定校推薦で入学した学生が多い。1つのスポーツ競技だけを幼い頃から一所懸命にやってきて、ほかの勉強をする余裕がなかったのだろうか。あるいは、生まれてからずっと都会で育ち、大学生になるまでに森や海に行って周囲の自然を体験する機会がなかったのだろうか。学校の授業で学んだ知識だけではなく、自身の体験からも回答できるはずの質問なのだが。

筆者も同じようなレベルの学生が入学している大学で授業を担当しているが、あるとき、首都圏の中小企業経営者から、真顔で「就職試験をやると、高卒生と大卒生の得点がほとんど変わらない。場合によると、高卒生のほうが高得点のこともある。大学生は4年間かけて何を勉強しているのですか?」と聞かれたことがあった。

形骸化した「学士」を量産

この企業はこれまで高卒生中心に採用していたが、近年、大卒生にも求人をかけるようになった。当然、いわゆる有名大学生の応募は少なく、会社側も地元の中小規模の大学生にターゲットを絞っている。その採用活動の中で発せられた質問だが、同様の思いを抱いている企業人は少なくないだろう。

受験生の志願状況から見てみると、少数の大規模大学が10万人を超える志願者を集めている一方、志願者数が伸び悩み、経営のためにどのような学力の志願者でも受け入れている大学が多数存在する。このような大学には、「教育困難校」と呼ばれる高校の卒業生が多数入学している。大学進学率が低く大学入試が難しかった時期には、進学できなかった学力層を多数抱えている高校だ。筆者は、高校からの連続性を踏まえて、どのような学力の志願者でも受け入れている大学を、「教育困難大学」と呼びたい。

それらの大学では、学習面だけでなくあらゆる場面で学生への指導が難しくなっている。4年間、学生がほとんど何も学ばないまま、形骸化した「学士」を量産して世に送り出しているのが現実だ。多方面で学生への対応に連日苦労している大学教職員は、全国に存在している。大学進学希望者への新しい経済的援助が考えられつつある今、本連載を通してリアルな現実の一部を描写することで、現在の大学が抱える問題の一端を、少しでも多くの人に考えてもらう機会になるよう願っている。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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