赤字の都バス、「稼げない路線」は何が違うのか 収支で見る、知られざる都バスの正体<下>

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赤字路線や定額運賃から都バス事業は56年も連続の営業赤字が続いている。公共交通という手前、「不採算路線でも利用客がいるかぎりは存続させる」(交通局自動車部の島崎健一事業改善担当課長)からだ。

ただ、さすがに利用率の低迷から存続の危機に立たされる路線もある。青梅駅近郊の裏宿町と高水山の登山口付近の上成木をつなぐ、「梅76甲」だ。

存続の危機にある「梅76甲」

青梅市成木にあるバス停「上成木」。東京とは思えないほどのどかな風景だ(記者撮影)

運行本数は1日5本。沿線の大部分を占める成木地区の自治会が2014年に行った調査によれば、同地区での1日の利用者はわずか19人。

近隣住民も、「移動手段はほとんど車。バスに乗る人は登山客くらい」と打ち明けるという路線だ。

2011年に発足した「青梅市公共交通協議会」では、この路線の存続が議論されている。

協議会の座長を務める日本大学理工学部の轟朝幸教授は、「路線があるとないとでは、住民の安心感や利便性がまったく異なる」と不採算路線の存在意義を強調する。他方で、「路線を存続させるなら、行政はその理由を市民に説明し、理解を得る努力が必要だ」と説く。

赤字の路線バスを、どこまで地域住民や自治体が支援するのかに揺れるのはどこの自治体も同じこと。大阪市では今年3月、市営バスの民営化が決定したほか、山口県宇部市では先月、市営バス路線のうち7区間の廃止が決定している。

公共交通では鉄道にばかり注目が集まってきた。だが、住民の移動手段を支えるインフラには路線バスも含まれている。都バスですら赤字に陥っている状況に、もう少し光を当てるべきではないのだろうか。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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