「他人の人生を覗く」に魅せられた男の仕事観 ゲーム作りとの両立で人生を過ごしていく

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ただ、最近はリソースの配分問題よりも別の悩みのほうが大きいそうだ。

「手帳類はある時期からオートマチックに育っていく感じになったので、僕は無理のない範囲で向き合っていける部分が大きくなりました。だからすごく楽なんです。問題はその楽さ。手帳類の伸び方や反響に慣れてしまうと、ゲームのほうになかなか帰れなくなるんです。ゲームは1年かけて組み立ててようやく世に出せて、それでも反響は読めないところがあります。対する手帳類はひとりでにどんどん成長していってしまう。そのなかでゲーム作りのモチベーションをどう保つかという、その戦いのほうがいまは悩ましいです」

つねにリアルタイムの気持ちを重視していることもあり、数年先までレールを敷くことにはあまりエネルギーを割いていない。

「大ざっぱには計画しているんですけど、解像度はあえて高くしないでいる感じです。僕、完全燃焼はしたくないんですよ。どれだけ年を取っても、何かしらの創作活動をしていたい。目標をカチッと決めて達成してしまうより、何となく見える目標に向かって持続的に走っていたいと思っていて」

そのためにも、心身の健康維持には手を抜かない。その姿勢は、会社でのプログラミングと自分のゲーム制作、手帳類プロジェクトと日常生活をどれもおざなりにしないで向き合っているこれまでのスタイルに表れている。

長期的な計画性よりも不確実性が勝り、短期的には入念なリサーチと準備で後悔の地雷を踏まないようにする。振り返ってみると、この生き方は競走馬育成牧場への就職を希望した頃から変わっていない。

後世に残るようにする計画

志良堂さんは「大ざっぱな計画」のうち、ひとつだけ教えてくれた。自分が死ぬまでに手帳類プロジェクトを組織化したり誰かに引き継いだりして、後世に残るようにする計画だ。

「自分が死んでリセットされるには惜しいなあと感じるくらいには価値を見いだせていますからね。それに、これから長期的に活動していくことで見えてくるところもあると思うんです」

手帳類図書室の所蔵

現在コレクションしている手帳類は古くて1990年ごろのものになる。あまりに古いものは捨てられているか本人や家族が大切に保管しているので、コレクション市場に出回ることはめったにない。この傾向は今後も変わらないだろうが、30年、50年と続けていけば1世紀近いタイムスパンの手帳類が得られることになる。そうなると、時代の変化と個々人の思考の変化の関連性すら読めるようになるかもしれない。

「2000年と2015年の手帳類を比べても違いを感じるんですよ。2000年ごろはあっけらかんとした感じが多くて、バブリーな匂いのするものも結構見つかります。2015年はちょっと落ち着いているというか、不景気の影響を感じるところがありますね。特に女性は感情や内面を書きつづる傾向が男性よりも強いので、よりはっきりと違いを感じます」

個々人の思考の記録としては、手帳類はある意味で何よりも深いものを残している可能性がある。その深みから時代背景やその他境遇の違いを読み取ったら、これまでにない知見が得られるかもしれない。

古田 雄介 フリーランスライター

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ふるた ゆうすけ / Yusuke Furuta

1977年生まれ。名古屋工業大学卒業後、建設会社と葬儀会社を経て2002年から雑誌記者に転職。2010年からデジタル遺品や故人のサイトの追跡している。著書に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(伊勢田篤史との共著/日本加除出版)、『ネットで故人の声を聴け』(光文社新書)、『故人サイト』(社会評論社)など。
X:https://x.com/yskfuruta
 

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