6畳2間で家賃3万5000円の平屋を気に入り、そこでゲーム作りに打ち込む日々に入る。おカネを使わない生活は子供の頃から身にしみていて、月10万円の壁は苦にならなかった。食料は近所の人から分けてもらえることもあったし、欲しい情報はネットや図書館などから得られた。人恋しさもなく、誰とも会話のない日があってもストレスはたまらない。しかし、一向にゲームは完成しなかった。
「アイデアはあるのに全然形にできなくて。それをごま化すために簡単なアプリを作ったりして精神衛生を保っていましたけど、貯金、つまり使える時間はどんどん減っていくので……、多分不安だったんだと思います」
外の仕事と内の仕事
どうしても起承転結の結までたどり着けずに2年の月日が過ぎ去った。そんなとき、Twitterで知り合ったベンチャー企業の経営者に請われ、期間契約の助っ人のような立場で会社組織に入り浸るようになる。外での仕事と自らの内の仕事を両立する日々。すると2~3週間であっけないほど簡単に自作のゲームが作れるようになった。
「会社の人たちの熱量に刺激を受けたのと、何も作れない自分を直視できたのがよかったんだと思います。最初の作品は『ツキのないがいこつ』といいます。すごくアマチュアみたいなもので恥ずかしいんですけど、それさえも2年間使ってできなかったんですよね」
時間を束縛され、人にもまれることで霧が晴れた。この好循環を維持すべく、期間契約的なスタンスのまま企業にも籍を置き、外の仕事と内の仕事を組み合わせるようになる。外の仕事のプロジェクトが進行している間はそちらに集中し、完了したら次のプロジェクトまで時間を空けてもらうようにして内の仕事を進めるというスタイルは現在まで変わらない。
手帳類プロジェクトが動き出したのもこの頃だ。
内の仕事であるゲーム作りのネタとして、他人の手帳を読みたいという気持ちは以前からあった。書かれている視点や思考をストーリーのヒントにしたり、書き手自体を登場人物の造形に生かしたり。
「以前読んだ『思考の手帖』(東宏治著/鳥影社)というエッセー本がすごく面白かったんですね。著者の30年分の思いつきを書き留めた本で、思考の深いところがダイレクトに伝わってくるんです。けれどほかにこういう本は知らなくて、どうやったら手に入れられるのか考えたところ、手帳を集めればいいんじゃないかとなったんです」
会社組織に属し、人間に興味を持つようになった心境の変化も手伝って、2014年からネットやリアルの伝を頼って手帳集めが始まった。最初はネタ元集めのつもりだったが、2~3冊集めた時点で「僕以外の人が読んでも面白いな」と気づき、独立したプロジェクトとして公開を意識するようになる。
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