北米自動車市場で危機の連鎖、最初に淘汰されるのはどこか
いつ、どこが、倒れるのか--。米国製造業の象徴である自動車産業が崩壊の危機に瀕している。サブプライム問題、ガソリン高騰、原材料高の“三重苦”を受け、出口の見えない苦境だ。
「1450万台から1500万台の間で収まってもらいたい」。7月25日、2009年3月期第1四半期(4~6月期)の決算発表の席上、ホンダの近藤広一副社長は本音を漏らす。6月の米新車販売で唯一のプラス成長だった、ホンダから出た弱気の発言。それだけ米国の自動車市場は泥沼にはまっている。
長期的な好況を背景に成長し続けてきた米自動車市場も、05年の1744万台をピークに2年連続で減少。今年は当初の1600万台割れの予想から、1500万台割れが濃厚になってきた。中でも燃費の悪い大型車の売れ行き低迷が深刻だ。今年上半期(1~6月期)を見ると、乗用車部門の前年同期比1・7%減に比べ、ライトトラック部門は同18・3%減。6月単月ならライトトラックは29・5%ものマイナスだ(オートモーティブニュース調べ)。
大型車不振に直撃されたのが、それらを強みとするゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターなど、米国メーカーの面々である。
特に6月からのGMをめぐる動きは、目まぐるしかった。
それ以前にも1万7000人の早期退職を進めたばかりのGMだが、6月3日に大型車4工場の休止やSUV(スポーツ多目的車)「ハマー」の売却など、あらためてリストラ策を発表。が、7月2日にメリルリンチ証券がGMの資金繰り不安に関するリポートを出すと、同日、GM株は1954年以来の10ドル割れに陥った。10日には、リチャード・ワゴナー会長兼CEOが“連邦破産法申請”説を一蹴したものの、効果なし。15日に設備投資抑制や配当停止、海外資産売却で、総額150億ドルもの手元資金積み増しを明らかにした。
GMは年度ベースでも、前07年12月期に387億ドルと、空前の最終赤字を計上。製造業では全米史上で過去最大級の赤字を記録してしまった。05年12月期からは3期連続赤字となり、その総額は500億ドルを超えるほどだ。財務状態も年々傷んできた結果、前期末では371億ドルの債務超過に陥っている。
GMは4期連続赤字も毎月10億ドルの資金が流出
「ユーザーの大型車離れは一時的ではない」(ワゴナー会長)。
実はGMの収益構造は地殻変動を起こしている。前期、937万台と世界販売トップだった主力の自動車部門は、内情は10億ドルの営業赤字。これを四つに分けた地域別で見ると、北米の赤字20億ドル、欧州の赤字6億ドルに対し、南米・アフリカ・中東は11億ドルの黒字、アジア・太平洋も5億ドルの黒字だった。つまり、新興国ではまだ伸びる余地がある反面、景気が減速し、燃費など環境規制の厳しい先進国では、すでに立ち行かない経営体質になっているのだ。
母国の北米では前期も販売シェアで23%と、かろうじて首位を維持したとはいえ、80年代前半の40%台半ばに比べ、往年の圧倒的な影響力はない。オイルショック以降、日本勢が低燃費の小型車開発に注力してきたのと対照的に、GMをはじめ米国勢は、「90年代に起きた束の間のSUVブームに酔いしれてしまった」(外資系証券アナリスト)。