デザイン思考の先を行く「意味の革新」の本質 1人の熟考がブレインストーミングを上回る

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大勢でああだこうだと話していてもラチがあかないことも(写真:xiangtao / PIXTA)

「そこそこ技術はあるけど、モノが売れない」というのは、いま日本の多くの企業が経験していることではないでしょうか。その解決策の1つとして、ヨーロッパでいま注目されているのが、「意味のイノベーション」という考え方です。

製品の特徴ではなく「意味」を考える。それによって、改良ではなく「革新的な変化」を起こす。すでにあるニーズを満足させるのではなく「ビジョン」を提案する。こうしたことが「意味のイノベーション」の特徴です。7月5日に配信した「ロウソクが実は成長産業であるという意味」でも、イタリアの調理器具・雑貨メーカーであるアレッシィや、スイスの時計メーカーのスウォッチなどの例を挙げて解説しました。

絵の世界でも、かつて時代を変えるような「意味のイノベーション」がありました。皆さんもご存じの「印象派」は、まさしく19世紀の絵画の世界における大イノベーションでした。それまで絵画といえば、「屋内で、神話的なテーマを取り上げて、ルールにのっとって描く」のが普通でした。それに対して印象派は、「戸外で、自分が感じたままに、木々を青く色づけ、地面を紫に塗った」のでした。

印象派の代表格であるルノワールは、最初にパリ近郊のフォンテーヌブローという土地でそうした新しい画法を試み、それを信頼するイギリス人画家のアルフレッド・シスレーに見せました。ルノワールの絵画を見て、シスレーは「君は何とクレージーなんだ!」と批判しながらも、徐々にルノワールの考える方向に同調していったといいます。ともあれ、こうしたドラマを生みながら、印象派は絵画の「意味」を変えたのです。

イノベーションは複数のアプローチを使いこなす

拙著『デザインの次に来るもの』でも詳しく解説していますが、実際に「意味のイノベーション」を起こすためのアプローチはどうすればいいのでしょうか。結論からいえば、何か1つの手法ですべてが解決というのはありえないのですが、大切なのは、世の中にあるたくさんのアプローチや手法・ツールをケースによって複数、使い分けることです。これをヨーロッパの実践例から見てみましょう。

「意味のイノベーション」は、EU(欧州連合)の欧州委員会のイノベーション政策の中で重視されています。この政策は、2010年から10年間にわたる6つの重点プロジェクトのうちの1つです。そして、この推進のために、欧州委員会ではデザインの考え方を普及させるプロジェクトを連続的に行っています。つまり、「デザインの考え方はイノベーションに適用しやすい」と判断したということです。

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