デザイン思考の先を行く「意味の革新」の本質 1人の熟考がブレインストーミングを上回る

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そこで欧州委員会の公式文書を読んでいくと、デザインの考え方を表現するのに「デザイン思考」「デザイン・ドリブン・イノベーション」という2つのアプローチを並列させています。公式文書では、特に細かく定義されてはいませんが、実際のプロジェクトの内容を見ると、「デザイン思考」とは、米国のデザイン事務所IDEO(アイデオ)が非デザイナー向けにデザイナーの作業プロセスを体系化したアプローチを指しています。「デザイン思考」は、日本では関連書なども数多く出ていて、名前を聞いたことのある方も多いと思います。

「デザイン思考」と真逆の方法

一方、「デザイン・ドリブン・イノベーション」は、ミラノ工科大学ビジネススクール教授であるロベルト・ベルガンティの同名の著作から来ていることが、やはり実施プロジェクトを読み込んでいくと見えてきます。ベルガンティは欧州委員会の中にある、欧州デザインリーダーシップ評議会の15人の委員の1人です。

そして重要なのは、このデザイン・ドリブン・イノベーションこそが、「意味のイノベーション」である、というのが1点目。そして2点目として、この「意味のイノベーション」実施の方法論は、カギとなる項目でデザイン思考と真逆である、ということです。どちらが正しい、またはどちらが有効ということではなく、目的によってアプローチを使い分けるのを前提としているのです。

それでは、デザイン思考と意味のイノベーションとは、どこが異なるのでしょうか? 結論からいえば「有効なエリア」と「アプローチの方法」の2つのポイントが違います。

まずデザイン思考から見てみましょう。有効なエリアは、「すでに設定された課題の解決」を得意としています。だから、製品の場合であれば、製品改良に威力を発揮しやすいのです。イノベーションの種類からすれば、漸進的でマーケット・プル(ユーザー中心)に属します。

次に、アプローチの方法では、デザイン思考は「ユーザーが答えを持っている」ことを前提としています。したがって、外に出かけてユーザーを観察することをスタート地点に置きます。そして問いは「How(どうやって?)」です。その結果を持ち帰り、ワークショップでできるだけたくさんの解決アイデアを出します。そこでは他人のアイデアを批判してはいけません。また、その過程でアイデア選択の判断は下しません(最終判断はそこにはいない幹部が行います)。

つまり、デザイン思考では、(1)イノベーションの方向は外から内(問いはHow)、(2)批判してはいけない、というのが特徴です。

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