「スマホを残して死ぬ」ことで起きる深刻問題 個人情報を遺族が見ることを想像しているか

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このような話が出てくると「そもそも不倫をすることが間違っている」という声が聞こえてきそうだが、それは倫理上もっともだ。しかし、こうしたわかりやすい事例に限らず、長年人生を積み重ねてきて、家族にいっさいの秘密がない、何を見られても構わない、という人は少ないのではないだろうか。

「家族に内緒にしておきたいものは、きちんとデータを処理する等の対策を取ってほしい。そうすれば、残された遺族も、知らなくてもいい真実を知ることなく穏やかに過ごすことができる。デジタル終活で、自分自身のパーソナルな領域も家族も守ってほしい」(伊勢田弁護士)

「デジタル終活」の進め方は?

では、「デジタル終活」は具体的には、どのように進めればいいのだろうか。伊勢田弁護士が定期的に行っている「デジタル終活」セミナーでは、受講者に自分のスマホやノートパソコン等を持参してもらい、「デジタル世代の引き継ぎノート」等を使いながら、遺族にとって必要な情報を書き出す作業を実際に体験してもらう。

このノートは、デジタル遺品の死後の取り扱いに関する情報に特化させたエンディングノートになっている。パソコンの中や、クラウドストレージに情報を保存しておくと、結局取り出せないことになる可能性があり、また情報セキュリティの観点からも、アナログではあるが紙として物理的に残すことが安全だ。

「デジタル世代の引き継ぎノート」の記載例。銀行口座1つでも、伝える必要がある情報は多い

「『終活』という言葉はだいぶ普及したように思えるが、実際に終活に取り組んでいる方はまだまだ少数にとどまる。ただ、今後、日本は超高齢社会で相続が次々と発生することは確実。遺された若い人が、身内の相続紛争に巻き込まれ疲弊することなく、本来なすべきことでパフォーマンスを発揮できる世界をサポートしたい」(同)

自分が死ぬことを前提とした行動を取ることは、確かに心理的にハードルが高い。しかし、デジタルデバイスは誰しもが日常生活の中でつねに触れているため、比較的抵抗感なく考えることができる。「デジタル遺品を残したまま死んだらどうなるか」を考えることを通じて、デジタルデータ以外の重要な事柄にも思いを馳せる、よいきっかけになる。それが「デジタル終活」の重要な意義になりそうだ。

関田 真也 東洋経済オンライン編集部

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せきた しんや / Shinya Sekita

慶應義塾大学法学部法律学科卒、一橋大学法科大学院修了。2015年より東洋経済オンライン編集部。2018年弁護士登録(東京弁護士会)

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