黒田総裁もクギを刺した、財政規律の緩み FRBの出口戦略から見える課題と、日銀への示唆(下)

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一方、バーナンキFRB議長はその問題に深入りしないようにしていたという。しかしながら、日銀もそうだが、大量に国債などの証券を買い取る金融政策は、事実上、財政政策の領域に深く入り込んでしまっているので、実際は財政の「当事者」と見なすことができる。

中央銀行の保有証券に損失が発生したら、納税者が結果的にそれを補わなければならないという点で、そういった金融政策は財政政策とオーバーラップしているからだ。財政政策が妙な方向に行かないように中央銀行総裁が警告を発し続けることはあってもいいと思われる。

金融政策が財政政策に使われてしまう懸念

先進国の政府債務の状況を分析した論文 ”Crunch Time: Fiscal Crises and the Role of Monetary Policy”(ミシュキン、グリーンロウ、ハミルトン、フーパー、2013年2月)は、金融緩和策は、政府・議会が財政健全化に向かって適切に対処しているときはその方向性に貢献するが、逆の場合は、金融政策は財政政策に支配されてしまう、と指摘している。いわゆるフィスカル・ドミナンスの状態である。

FRBは資産買い入れ策によって現在膨大な米国債を保有しているが、議会の機能不全により財政赤字の維持可能性が市場から疑われるようなことがあると、FRBの財務の健全性は急速に悪化し、通貨の信認凋落と財政危機がスパイラルを起こしていくリスクがあると、その論文は指摘している。

現在の日銀は政府が毎月発行する国債の約4分の3を購入し続けている。実はFRBの国債購入額は米財務省発行額の3割弱にすぎない。もし日本の政府・国会がそれによる金利抑制効果に安住してしまい、財政再建を遅らせて政府債務を膨らませていくようなことがあると、フィスカル・ドミナンスが現実化するおそれがある。今後も黒田総裁は政府・国会に財政再建を進めるよう促し続けるだろう。

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