金正恩の大暴走をロシアが手放しで喜ぶワケ 米国には目障りな中国・ロシア戦線

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一方、中国にとって、北朝鮮は「地政学的重要性」を有している、トレーニン所長は指摘する。「中国との安定した協力関係、一種の主要国協約が確立しているというのに、ロシアにとって2次的な重要性しかない地域で中国との関係を悪化させるのはばかげていることだ」。

ロシア政府はこれまで、自らが北朝鮮危機の「仲裁役」になれると考えてきたフシがある。そして、北朝鮮との関係構築を視野に、ロシアの極東から北朝鮮への原油の輸出を増やすことでその影響力を増大させようとした。推定によると、3万~4万人の北朝鮮人が現在ロシアで働いており、サンクトペテルブルクでのワールドカップスタジアムなどの建設工事や、極東ロシアでの林業や農業に従事している。

抜群のタイミングで中ロ関係をアピール

しかし、これらの限られた支援によって、北朝鮮のパトロンとして中国が果たしている役割に取って代わろうという意図はない。

「現在の米ロ関係の悪化を考えると、米国、日本、あるいは韓国を喜ばせるような協力体制をロシアと中国が築くことは考えられない」とトレーニン所長は話す。「ロシアは対北朝鮮戦略について、すべて中国をまねするつもりはない。ただ、中国に不利益になるようなことは絶対やらないはずだ」。

こうしたロシアの戦略は4日、モスクワで示された。中国とロシアの首脳2人が、ガスパイプラインから増大する中国の対ロ投資まで大声で喧伝する一方、主要なメッセージは米国に向けられていた。G20サミット直前、という抜群のタイミングで。

金正恩が狙うのは、はるか離れた米国だが、今回放ったミサイルで勢いづいたのは、間違いなくロシアだったのである。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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