前代未聞の大事件「PC遠隔操作事件」の顛末

当時30歳のIT関連会社社員が行ったこと

片山が最初に罪を犯したのは、横浜CSRF事件と呼ばれる一件である。CSRFを使って第三者のパソコンを踏み台にし、横浜市のホームページの投稿コーナーへ書き込みを行う。そこには横浜市内の小学校を襲撃し、児童を大量に殺害するという予告文が書かれていた。

本来それほど高度なセキュリティ知識がなくても実行できるこの犯罪において、警察が誤認逮捕という失態を犯してしまったことが運命の変わり始めである。予想を遥かに超えた成功を収めたことで、片山は遠隔操作を使った殺害予告がもたらす高揚感に味をしめてしまい、次の事件を誘発してしまう。一方で、警察がこの段階で遠隔操作に気付いていれば、事件は人知れず収束していた可能性も否めない。

片山は他人のパソコンを遠隔操作して次々に新たな殺害予告の書き込みを行い、警察もさらなる誤認逮捕を引き起こしてしまう。まさに警察自身の手によって、この事件はただの愉快犯では済まされない、深刻かつ重大な事件に変わってしまったのだ。

しかし犯人である片山にとって、また捜査を行う警察にとって、何が成功で何が成功でなかったのかは、事件をどのようなスパンで見るかによって、大きく異なってくる。それが本事件の最大の特徴であり、ノンフィクションとして読み応えのあるポイントでもある。

もちろん事件当時の片山は、さらに調子づいた。「犯行声明メール」「自殺予告メール」「謹賀新年メール」「延長戦メール」と合計4通も、警察を挑発するようなメールを送り込んでいく。事件の鍵となる部分をクイズ形式で伝え、マスコミにも公開するという手の込んだシナリオは、世間を賑わすには十分であった。

片山に元凶があるとはいえ…

通常の犯罪捜査では、強制捜査権という特殊な権限が警察を情報優位な状況に保ってくれる。しかし、警察が持っているのと同じ情報が既にネット上に溢れてしまえば話は別だ。情報の非対称性という最大の強みを消しこむような作戦に警察は翻弄されるが、逆にそれが彼の逮捕へ踏み切らせていく。警察にはメンツという名の感情がうごめき、さらに片山の内偵をメディアに察知されたことも手伝って、見切りでの逮捕に走ってしまうのだ。

一時的には保釈されるものの、それがさらに次の事件へとつながり、結果的に片山の逮捕は正しかったことが証明されていく。警察、メディア、犯人、その誰もが踊らされながら帳尻だけが合ってしまったことは幸運だったのか、不運だったのか。

いかに片山に元凶があるとはいえ誤認逮捕を生み出したのは警察であり、ネット固有の言葉を文脈を無視して抜き出し社会を騒がせたのはメディアである。しかし後の裁判においては、そういった警察の失態やメディアでの影響による部分も片山の量刑に課せられた印象を受けた。これは本事件において、最も見過ごしてはならない点と言えるだろう。

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