前代未聞の大事件「PC遠隔操作事件」の顛末

当時30歳のIT関連会社社員が行ったこと

それにしても気になるのは、一体なぜ片山がこのような事件を引き起こしたのかという動機の部分である。驚くべきことに、この動機の中に片山逮捕までの道筋は内包されていた。

人付き合いが下手で、仕事上でもスランプに陥っていた片山が、リアル社会での不全感をネットを通じて世間を騒がせることの万能感で埋め合わせをしていたことは想像に難くない。しかし自分の方が一枚上手だとに思っているだけでは満足できず、それをみんなに知ってもらう必要もあった。この捻れた欲望こそが、片山の犯罪における特殊性である。

片山には捕まりたくないという気持ちと同時に、自分の存在や犯人が実は自分であることを知ってほしいという相矛盾する2つの気持ちが共存していた可能性が高かったという。つまり自己顕示欲があったからこそ事件は起こり、自己顕示欲があったから捕まってしまったというわけだ。これを皮肉と言わずして、何と言うべきか。

共創型の加害が事件をより大きなものに変えていく

しかし著者が一番問題視しているのは、マスコミの報道姿勢だ。特に事件記者と警察の近すぎる関係から、未確認のリーク情報が流されるケースは多く、それが捜査に大きな影響を与えてしまうことも多分にあるのだという。

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著者は行き過ぎた推定有罪報道が今回の事件に与えた影響にも警鐘を鳴らしつつ、本来あるべき報道の姿勢を、本書での筆致を通して実証してみせたとも言えるだろう。

たしかに犯人として捕まったのは片山祐輔ただ一人である。しかしこの事件の加害者は、無数に存在する。誤認逮捕を引き起こした警察もそうなら、リーク報道に便乗したメディアも同様だ。社会全体によって作り出された共創型の加害が事件をより大きなものに変えていったことは、しっかり記憶に留めておきたい。

事件が風化してしまう前に顛末を振り返ることの意味を、深く噛みしめられる一冊に仕上がっている。

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