名古屋の私鉄では「特急通勤」が定着している 1カ月間同じ席が使える定期券も

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8712列車は津駅を出ると、白子駅では若干名の乗降に留まったが、近鉄四日市駅で大量の乗降があった。桑名駅での乗降はわずかであり、近鉄名古屋駅では大量の旅客が下車した。名古屋の乗降が最多であることはもちろんであるが、名古屋と伊勢地方を結ぶ、近鉄の「名伊特急」では、近鉄四日市駅・津駅以南相互間の三重県内完結利用も多く見られる。ほぼ全区間でJR線と並行するが、無料急行と合わせて本数で圧倒する近鉄が優位な状況にある。

しかし、近鉄秘書広報部は、「全社の特急乗車人員のピークである1991年度を100%とした場合、2016年度は57%であった。また、普通列車を含む全社の乗車人員はピークの1991年度を100%とした場合、2016年度は70%となっている」と、同社を取り巻く鉄道事業の厳しい現状を打ち明ける。

手軽な利用環境整備で利用促進を

今後、少子高齢化やマイカー利用の進展で、鉄道事業者の経営はますます厳しい状況に直面するだろう。鉄道運輸収入の減少が予想される中にあっては、旅客1人当たりの客単価を向上させることが重要であり、そのために特急の利用促進策をさらに展開する必要がある。近鉄も、たとえば同じ席を継続利用できる「マイシート定期券」の発売を検討してはどうだろうか。また、名古屋と伊勢を結ぶ「名伊特急」の停車駅に、近鉄弥富駅、近鉄富田駅、江戸橋駅、津新町駅を追加することも一考に値しよう。

一方、名鉄については、スマートフォン・パソコンによるミューチケット購入サービスの導入をリクエストしたい。ミューチケットには乗り継ぎ通算制度があるため、ネットのシステム構築には手間と費用がかかるかもしれないが、気軽な利用環境がさらなる利用促進につながる可能性がある。

絶え間なく魅力あるサービスを提供し続けることが、鉄道の活性化へとつながり、地域を元気にする。そして、地域の人口や来訪者が増えれば、鉄道がさらに活性化する。魅力的で手軽なサービスを構築し、消費者との接点を少しでも増やすことが、こうした好循環の実現につながるだろう。鉄道事業者の不断の努力に期待したい。

大塚 良治 江戸川大学准教授

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おおつか りょうじ / Ryouji Ohtsuka

1974年生まれ。博士(経営学)。総合旅行業務取扱管理者試験、運行管理者試験(旅客)(貨物)、インバウンド実務主任者認定試験合格。広島国際大学講師等を経て現職。明治大学兼任講師、および東京成徳大学非常勤講師を兼務。特定非営利活動法人四日市の交通と街づくりを考える会創設メンバーとして、近鉄(現・四日市あすなろう鉄道)内部・ 八王子線の存続案の策定と行政への意見書提出を経験し、現在は専務理事。著書に『「通勤ライナー」 はなぜ乗客にも鉄道会社にも得なのか』(東京堂出版)。

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