元カレをストーカーにした50歳女性の言動 警察に突き出すなら感情で伝えてはいけない
これがスイッチだ。彼女が楽しく過ごしている様子を見て、男の感情が刺激されているのだろうと思った。インスタグラムの写真の掲載日と男から来たメールの日付を突き合わせてみる。どれも見事に符合していた。レストランの写真を載せた次の日に、誰と行ったんだといった質問や、昔俺と行った場所じゃないかといった恨み節のメールが来ている。買ったばかりの洋服やバッグなどの写真を載せると、その都度、かわいいね、似合いそう、一緒に買いたかったというメールが来ていた。
これは危ないかもしれない──私はそう思った。家を訪れたり尾行したりといった行動には至っていないが、彼女の行動を逐一観察していることは明らかだった。
ひととおり確認し、私は今後の話をした。
重要なのは事件の芽を摘むこと
「警告で付きまといが収まらない場合は、禁止命令を出してもらうことができます。禁止命令に違反した場合は逮捕することもできます。もしそういう対応を望むのであれば、手続きを手伝いましょう」
「逮捕って? 罪になるってこと?」
「もちろんです。懲役または罰金です」
「なら、そうしてちょうだい。もうこんな生活耐えられない」
「わかりました。では、一緒に警察に行きましょう」
彼女を連れて所轄の警察署に出向いた。彼女の素行や言動にも問題はあるが、放っておけば危険な目に遭う可能性もある。重要なのは事件の芽を摘むことだ。
警察署内の一室に通され、手続きを待った。彼女は終始、いすが硬い、のどが渇いたと文句を垂れていた。
しばらくすると急に彼女が黙り込んだ。難しそうな顔をして、何か考えている様子だった。
「やっぱりやめる」唐突に彼女が言った。
「え?」
「逮捕のことよ。やめるわ。警察の人にそう伝えて」
「逮捕ではありませんよ。禁止命令を出してもらい、それでも収まらなかった場合に逮捕されるということです」
「なんでもいいから手続きを止めて。あの人がかわいそう」
私は自分の耳を疑った。逮捕だ、逮捕だとわめいていたのはつい1時間前のことである。
その女性が、今はかわいそうだと言っている。驚きとあきれといらだちが一気に湧き上がり、めまいを起こしそうだった。とはいえ、それが依頼主の希望であるなら、まずは手続きを止めてもらわなければならない。私は警察官にそう伝え、どうにか処理を止めてもらった。警察からすれば迷惑な話だ。彼らは決して暇ではない。ほかに助けを求めている人が大勢いる。そういう状況をまったく考えることなく、彼女は警察を振り回しているのだ。私は担当してくれた警察官に詫び、足早に署を出て行く彼女を追った。
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