中央銀行の「静かなる革命」 金融政策が直面する3つの課題 アラン・S・ブラインダー 著/鈴木英明 訳~金融政策をめぐる3つの大きな変化を論ず

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中央銀行の「静かなる革命」 金融政策が直面する3つの課題 アラン・S・ブラインダー 著/鈴木英明 訳~金融政策をめぐる3つの大きな変化を論ず

評者 河野龍太郎 BNPパリバ証券チーフエコノミスト

 かつて金融政策は、金融市場に対し横柄な態度を取る中央銀行総裁一人の判断で秘密裏に決定されていた。現在の金融政策は、高い透明性の下で市場に配慮しながら委員会制によって運営されている。本書は、中央銀行をめぐる近年の大きな3つの変化--透明性の拡充、政策運営方式の変化、金融市場との関係について論じたものである。

今となっては信じ難いが、1994年2月以前、FRB(米連邦準備理事会)は政策を変更してもなんら声明を発表していなかった。このため会合後の資金供給を見て、政策変更の有無を判断しなければならなかった。今では政策決定の即時公表のみならず、政策決定の背景となる経済・物価見通し、先行きの経済・物価のリスク・バランス、将来の金融政策運営方針なども公表されている。他の中央銀行もFRBに追随している。

なぜ中央銀行は透明性を拡充しているのか。民主主義の下で政治的な独立性を与えられた中央銀行が説明責任を果たすのは当然だが、理由はそれだけではない。透明性拡充が金融政策の有効性を高めると著者はいう。中央銀行が完全にコントロールできるのは政策金利だけだが、経済・物価に大きく影響するのは資産価格だ。中央銀行がどのような考えに基づき政策運営しているか市場に理解されれば、政策の予測可能性は高まる。将来の政策経路が資産価格に織り込まれ、政策効果が高まる。

二つ目の変化は政策運営に関するもので、なぜ総裁一人ではなく、委員会制で政策を運営するようになったかである。著者はリスク分散のメリットを指摘する。不確実性に満ちた現実の経済の下では、いかに優秀であろうと一人の人物に任せるのはリスクが大きい。反対に委員会制は、バックグラウンドが異なるメンバーが集まることによる多様性、知識の持ち寄り、チェック・アンド・バランス、政策のボラティリティの低下といったメリットがある。

三つ目の変化は市場との関係である。かつて中央銀行は傲慢な態度で市場を従わせようとしていたが、今では市場を尊ぶようになっている。市場から情報を得ることは、市場が影響力を強める現在、政策運営において必要不可欠である。ただ、市場は時として近視眼的な動きを見せる。中央銀行が市場に追随するようになると、金融政策は振れが大きくなる。その結果、市場そのものの変動も激しくなり、ファンダメンタルズからの逸脱の原因になりかねないと、著者は警告する。ここ数年、市場の行きすぎが頻発しており、著者に賛同する人も少なくないだろう。

コンパクトでとても読みやすい。

Alan S.Blinder
プリンストン大学教授・経済政策研究センター長。1945年生まれ。MIT経済学博士。93年1月~94年6月大統領経済諮問委員会委員。94年6月~96年1月FRB副議長、2000年大統領選挙でゴア候補のチーフ・エコノミック・アドバイザー。

日本経済新聞出版社 2100円 205ページ

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